危ない信託契約書
見逃せない3つの盲点
前は、「家族信託」に“ひな型”は存在しないということ、また、商事信託の条文を流用した契約書の危険性を話ました。
今回は、契約内容のうち特に実務上リスクが高い3つの盲点を取り上げます。
1.受託者の権限が不十分
家族信託の契約書は、「親の老後や相続への備え」として機能するため、受託者にどのような権限を与えるかが非常に重要です。
にもかかわらず、契約書に「包括的な管理処分権限」といった抽象的な記載だけがなされ、実際に想定される具体的な権限(例:建替え、売却、修繕、借入など)が明記されていないケースが散見されます。
将来、認知症や不慮の事故など「もしも」の事態が起きた際には、委託者が指示できなくなります。
そのとき、信託契約書に十分な権限が記されていなければ、受託者は何もできず、結局、成年後見制度に頼ることになりかねません。
つまり、信託契約は“保険”のような存在であり、「万一の時に受託者が柔軟に動ける条項」が備わっていなければ、本来の信託の意味を失います。
2.契約期間が不適切に制限されている
「信託の期間を5年・10年」と定めている契約書を見かけますが、これは明らかに商事信託の考え方を流用したものであり、家族信託の実情に合いません。
商事信託は、期間を区切って財産を預かり、更新のたびに報酬を受け取る仕組みのため、有期であることに意味があります。
しかし、家族信託は、親の老後を支え、相続後の承継までを見据える長期的な枠組みです。
「親が亡くなるまで」や「第二受益者が亡くなるまで」といったライフステージに基づいた期限の設定が基本であり、「年数」で区切ることには原則として合理性がありません。
3.予備の受託者が指定されていない
家族信託の受託者は多くの場合、子どもや親族といった個人です。
仮にその受託者が病気や事故、あるいは親よりも早く亡くなってしまった場合、誰が信託事務を引き継ぐのかが問題になります。
しかも、委託者(親)がすでに認知症等で判断能力を失っていれば、新たな受託者を指定することも困難になります。
こうしたリスクを防ぐためには、「予備受託者(後継受託者)」の指定が必要不可欠です。
ところが、商事信託ベースの契約書にはこうした想定がなく、結果として、信託が途中で機能停止するというリスクを抱えることになりかねません。
まとめ
このような契約書は、パッと見ただけでは整って見えるかもしれません。
しかし、肝心のポイントが抜けていたり、内容が不適切だったりすれば、将来の家族にとって大きな不利益となる可能性があります。
家族信託は「親の想いを託し、子がそれを支える」仕組みです。
見た目の体裁ではなく、「中身の妥当性」が問われる制度であることを、ぜひ忘れないでください。

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