· 

合法とうたわれた薬物が招いた大混乱 — 脱法ドラッグの規制逃れ

「合法」とうたわれた薬物が招いた大混乱 — 脱法ドラッグの規制逃れ

 「合法ハーブ」「お香」といった呼び名で手軽に買える

 ―そんな触れ込みで若者を中心に広まった脱法ドラッグ(別名:脱法ハーブ、危険ドラッグ)。

 見た目はただの乾燥植物や雑貨ですが、中には麻薬に似た強い幻覚作用を持つ合成化学物質が混入されており、吸引すると意識障害や暴走運転、急性中毒で救急搬送される例が相次ぎました。

 社会問題化したのは2012年前後で、大阪や愛知など各地で吸引が原因とみられる暴走事故や死亡事故が立て続けに起き、行政も警戒を強めました。

 大阪市の報告にも「吸引が原因と考えられる車の暴走事故が相次いでいる」との記載があります。(大阪市公式ホームページ)

 なぜこれが野放しになったのか。

 理由は単純で、「法律で禁止されている物質」だけを取り締まる従来の仕組みが、化学構造を少し変えた新物質の登場スピードに追いつかなかったからです。

 メーカーや販売業者は成分を微妙に改変しつつ「これは指定薬物ではない」と主張して販売を続け、所持や使用自体が違法とならない期間が生じてしまいました。

 結果として店舗やネットで堂々と売られ、若者の手元に渡ったのです。(厚生労働省)

 実際の被害は深刻でした。2012年には脱法ハーブを吸引した運転者が商店街で暴走し人をはねた事件や、高校生が吸引後に体調を崩して救急搬送されたケースなど、命に関わる事故が相次ぎました。

 ある高校生の死亡事故や逮捕・起訴例はメディアにも大きく取り上げられ、地域社会に不安を広げました。

 こうした動きを受け、政府は緊急対策に乗り出しました。

 2014年(平成26年)4月1日施行の改正で、「指定薬物」の所持・使用・購入そのものを禁止し、違反には刑罰を科すことになりました。

 また、単一物質の列挙だけで対応するのではなく、化学構造の類似性に基づく包括的な指定(包括規制方式)を導入し、新種の“亜種”が出てもまとめて規制できる仕組みに改められました。

 これにより、当初の「成分をちょっと変えれば合法」という抜け穴は大きくふさがれました。(厚生労働省)

 

 とはいえ、問題が完全になくなったわけではありません。

 包括規制の導入で指定物質の数は飛躍的に増え(導入当初の数十種からその後数百〜千種に及ぶ指定拡大の経緯があります)、化学鑑定や立件の現場は膨大な作業に追われています。

 さらに新たな化合物は依然として生まれ続け、鑑定や立件の「後追い」になりがちという課題が残っています。

 専門家は「規制の網を張るスピードと鑑定・捜査の実務力を如何に整備するか」が今後の焦点だと指摘します。(自民党)

 最後に、個人としてできることを一つ。

 脱法ドラッグは見た目がいかにも「お土産」や「アロマ」として売られているため、若者が軽い気持ちで手を出しがちです。

 ですが所持や使用が健康被害や刑事罰につながることがある点、そして何より命を落とすリスクがある点を忘れてはなりません。

 購入しない、近づかない、見かけたら通報する

 —それが地域を守る最低限の行動です。(国立精神・神経医療研究センター)

 脱法ドラッグ問題は法改正で一定の効果を上げましたが、化学と悪用のイタチごっこは続きます。

 法律と現場、教育と啓発が連動して初めて被害を防げる、という教訓を私たちは胸に刻む必要があるでしょう。