何気ない「捨印」のおそろしさ
役所の書類や契約書にハンコを押すとき、余白に小さく押される「捨印(すていん)」。
書類の間違いを後から訂正するときのための印で、「訂正印の代わり」くらいに思っている人も多いでしょう。
ところが、この捨印、軽く考えていると大きなトラブルの原因になります。
捨印とは何か
捨印は、契約書や申請書などで誤字や金額の訂正が必要になったとき、わざわざ本人に連絡せずに書き直せるように、あらかじめ押しておく印です。
便利なように思えますが、その一方で「訂正できる範囲が非常に広い」ことが危険です。
本来、契約書の訂正は、該当箇所に二重線を引き、正しい内容を書き、訂正した箇所に当事者双方が印鑑を押すという手順を踏みます。
ところが捨印があると、この手順を省き、相手側だけで内容を変えることが可能になってしまいます。
実際に起きたトラブル例
ある不動産売買のケースでは、買主が契約書に捨印を押した後、売主側が「日付の訂正」という名目で契約条件の一部を変更してしまいました。
結果、手付金の額や支払い期日が変えられ、買主は不利な条件を受け入れざるを得なくなったのです。
また、賃貸契約の更新書類に捨印を押したところ、家賃の金額が「訂正」という形で引き上げられていたという例もあります。
本人が気づいたのは引き落とし額が増えてからで、抗議したものの「訂正は承諾済み」とされてしまいました。
なぜ危ないのか
捨印は、相手に「書類の内容を自由に直す権限を与える」ことに等しいからです。
訂正の範囲は、誤字1文字から契約の重要な条件まで広がります。
しかも訂正後にこちらの確認や署名が不要なため、気づいたときにはもう遅い場合がほとんどです。
特に不動産契約、金銭消費貸借契約(借用書)、遺産分割協議書など、金額や権利に関わる書類では、捨印によってこちらの不利益になる変更をされても証拠が残りにくく、争いになると不利になりがちです。
捨印を求められたらどうする?
では、相手から「念のため捨印を押してください」と言われたらどうすべきでしょうか。
- 理由を確認する 「どの箇所を訂正する可能性があるのか」を具体的に聞くことが重要です。
- 可能なら押さない 軽微な誤字程度なら、その場で書き直して訂正印を押す方が安全です。
- やむを得ず押す場合は範囲を限定する 訂正が想定される箇所を明記し、「この部分のみ訂正可」と注記してから押す方法もあります。
まとめ
捨印は一見便利ですが、相手に大きな権限を与える行為です。
軽い気持ちで押したハンコが、後に数十万円、場合によっては数百万円の損失につながることもあります。
契約や重要書類では、「後から訂正できる」ことよりも「勝手に変えられない」ことの方が大切です。
もし捨印を求められたら、まずは内容と必要性を確認し、可能であれば押さないこれが自分と家族を守るための一番の方法です。

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