前払い退職金で純資産を一時減少させる
〜自社株評価を抑え、次世代への株式承継をスムーズに〜
中小企業のオーナーが悩む代表的な問題
―それは自社株評価の高さです。
非上場会社の株価は「純資産価額方式」または「類似業種比準価額方式」で算定されますが、どちらの方式でも会社の純資産額が大きければ株価が高くなる構造です。
そのため、承継前に一時的に純資産を減らす=評価を下げることが有効な対策になります。
その王道の一つが、「前払い退職金(役員退職慰労金)」の活用です。
・仕組み:
損金算入と純資産減少のダブル効果
退職金を支給すると、会社はその金額を損金として計上できます。
損金が増えれば、当然ながら利益が減り、結果として当期純利益および純資産が減少します。
この「利益減→純資産減→株価下落」の流れが、株式承継時の評価を抑える仕組みです。
たとえば、純資産2億円の会社が5,000万円の退職金を支払うと、翌期の純資産は1億5,000万円となり、株価評価が25%下がる計算。
相続税・贈与税の評価にも直接影響を与えます。
・ポイント:必ず「合理的範囲内」で
もちろん、「退職金を払えば何でもOK」ではありません。
税務上の要件を満たすことが前提です。
具体的には:
- 退職の事実があること(退任・定年・解任等)
- 支給額が適正であること(過大支給は損金否認)
- 支給根拠が明確であること(退職金規程・株主総会議事録)
- 実際に支払が行われていること(未払計上のみはNG)
税務調査では「在任年数・役職・業績」などから合理的な算定式が求められます。
一般的には「最終報酬月額×功績倍率(1.5〜3.0倍)×在任年数/役職基準」で算出し、その根拠を社内に保管しておくことが重要です。
・応用:
前払い形式の活用
実際の支給
辞任時に一括支給できない場合や、資金計画上の理由から、前払い退職金制度(将来退職金の一部前渡し)を導入するケースもあります。
この場合は、契約書や規程で「将来の退職金の一部として支給する」旨を明示すれば、税務上も合理性が認められやすく、損金計上が可能です。
ただし、“給与の仮装や“将来の勤務対価と見なされると損金否認されるため、制度設計の文書化が肝心です。
・メリットと留意点
メリット:
- 損金算入による法人税軽減
- 純資産の一時減少による自社株評価の低下
- オーナーの老後資金確保
- 承継資金の準備にも転用可
留意点:
- 税務上の「過大支給」判断は厳しい(特に同族会社)
- 支払タイミングによって会計処理・税務認定が変わる
- 退職金支払後に業績悪化した場合、資金繰り負担に注意
・チェックリスト
- 退職金規程の最新版を確認し、役員職位別の基準を明示
- 株主総会で退職金支給決議を正式に記録
- 税理士に「過大性判定」のシミュレーションを依頼
- 資金繰り表と承継スケジュールを連動させる
- 支払証憑(振込明細)・議事録・算定根拠書をセットで保存
・まとめ
前払い退職金は、「税務的にも正当」「資金的にも実現可能」「相続税にも有効」という“三拍子そろった株価対策です。
形式さえ整えておけば、税務リスクは極めて低く、効果は確実。事業承継を控えたオーナーにとって、最も説明しやすく安全な“白い節税の一つといえるでしょう。

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