子どもに迷惑をかけないために…
「墓じまい」という静かな決断
佐藤和夫さん(仮名・69歳)は、地方都市で妻と二人、年金を頼りに穏やかな生活を送っています。
年金収入は夫婦合わせて月およそ24万円。
預貯金などの資産は2,000万円ほどあり、贅沢はできないものの、日々の暮らしに大きな不安はありません。
毎年お盆が近づくと、和夫さん夫婦は欠かさずお墓参りに出かけてきました。
自宅から電車で1時間ほど。
先祖代々受け継がれてきた大切なお墓です。
しかし、年齢を重ねるにつれ、草むしりや掃除が少しずつ体に堪えるようになってきました。
「この先、いつまで自分たちで管理できるだろうか…」
そんな思いが、頭をよぎるようになります。
一人息子は大企業に勤め、国内外を飛び回る忙しい毎日。
実家に戻るのは年に一度あるかどうかです。
「将来、このお墓のことであの子に負担をかけたくない」
そう考えた和夫さんは、息子に相談したうえで墓じまいを決断しました。
息子からは「父さんたちが決めたなら、それでいいよ」と言われ、背中を押された形です。
墓じまい後に気づいた「想定外の喪失感」
墓石の撤去・解体、遺骨の取り出しや移送、新たな納骨先の使用料、僧侶への供養料などを合わせ、費用はおよそ100万円。
「高かったけれど、これで肩の荷が下りた」当初はそう感じていました。
遺骨は共同墓地に納め、将来は自分たち夫婦も同じ場所に入る予定です。
形式上、供養は続いています。
ところが、親戚に事後報告すると、思いがけない言葉を投げかけられました。
「先祖のお墓を片付けるなんて…」
「よくそんな決断ができたね」
さらに、夏休みに遊びに来た9歳の孫から、こう聞かれました。
「おじいちゃん、お墓は? 今年は行かないの?」
その瞬間、和夫さんの胸に、言葉にできない穴が開きました。
これまで、家族みんなで花を買い、お墓に水をかけ、手を合わせ、帰りにアイスを食べる
―それが夏の恒例行事でした。
孫にとっては「先祖」という存在を感じる、数少ない体験の場だったのです。
「もしかすると、大切な時間を奪ってしまったのではないか…」
そう思うようになりました。
合理性だけで決めていい問題ではない
高齢になると、お墓の管理が負担になるのは事実です。
子どもに迷惑をかけたくないという思いも、自然な親心でしょう。
しかし、「遠い」「大変」という理由だけで、すぐ墓じまいを選ぶ必要があるとは限りません。
- 清掃や供養を代行してくれるサービス
- 近場への改葬
- 親族間での分担
など、別の選択肢もあります。
また、墓じまいには・離檀料トラブル・改葬許可の不備・想定外の追加費用などのリスクもあります。
さらに重要なのは、お墓が単なる管理対象ではなく、心の拠り所になっている場合があるという点です。
後悔しないために必要なこと
墓じまいに「正解」はありません。
状況によっては、合理性を優先せざるを得ないケースもあります。
それでも、
- なぜ墓じまいをしたいのか
- 本当に困っているのは何か
- 家族はどう感じるのか
を、時間をかけて話し合うことが大切です。
一度行えば、元に戻すことはできません。
だからこそ、「良かれと思って」の決断ほど、慎重さが求められます。
終活とは、単に物を整理することではありません。
自分と家族の価値観を確認する作業でもあります。
和夫さんは今、こう語ります。
「選択自体が間違いだったとは思わない。
でも、もっと考える時間を持てばよかった」
墓じまいを考えている方は、ぜひ一度立ち止まり、複数の選択肢と向き合ってみてください。
そのプロセスこそが、後悔の少ない老後につながっていきます。

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