自社株を低額譲渡して後継者に渡す
〜価格を下げれば節税?それとも贈与? 境界線を正確に見極める〜
「後継者に早く株を渡したいが、今の評価額では贈与税が高すぎる」
─こうした悩みを持つオーナー経営者は少なくありません。
そこでよく検討されるのが、「自社株を時価より低い価格で後継者へ譲渡する」という手法。
つまり、“今のうちに安く売ってしまえば、将来の値上がり益を無税で後継者が得られるという考え方です。
一見もっともらしく聞こえますが、ここには明確な税務上の境界線が存在します。
・仕組みの狙い
自社株の評価は、「類似業種比準価額」や「純資産価額」で決まります。
例えば、現時点で1株=10万円と評価されている株を、オーナーが後継者に1株=5万円で譲渡すれば、後継者は半額で株式を取得し、将来株価が20万円になったときに、差益分15万円×株数の資産を手にする。
このとき、形式上は「売買」であるため、贈与税ではなく譲渡所得税(オーナー側)が発生します。
そして、売買価格が“時価相当額であれば合法です。
・税務上のグレーゾーン
問題は、その「時価」がどこにあるか、です。
もし税務署が「実際の取引価格(5万円)が時価(10万円)より著しく低い」と判断すれば、差額分(5万円)は“無償譲渡=贈与とみなされ、みなし贈与税が課税されます。
国税庁の指針(相続税基本通達9-2)では、
「著しく低い価額による譲渡は、時価との差額を贈与とみなす」と明記されています。
つまり、実質的な時価との差が大きければ脱税扱いになりかねないということです。
・判断ラインの目安
過去の裁決や判例を見ると、概ね「時価の80%以下での譲渡」は、贈与認定されるリスクが高いとされています。
逆に、時価の90〜100%程度の価格帯であれば、取引の合理性(資金繰り・経営安定・承継計画など)が説明できる限り、合法的な売買として認められるケースが多いです。
また、第三者(顧問税理士・公認会計士など)が作成した株価算定書を添付しておくことで、「合理的価格での取引だった」という説明根拠になります。
・実務での安全な設計
売買契約書を明確に作成する
→ 取引目的(承継準備)と価格算定方法を明記。
株価評価書を添付する
→ 類似業種比準方式または純資産価額方式を利用。
売買代金は実際に支払う
→ 名義だけでなく、後継者が銀行振込で支払うこと。
分割払い(数年計画)も有効
→ 負担能力に応じた支払スケジュールを組み、形式を整える。
これらを実行すれば、節税効果を維持したまま、税務上も合法と認められやすくなります。
・チェックリスト
- 株価算定書(税理士作成)を取引前に準備したか
- 契約書に「時価の根拠」と「支払条件」を明記しているか
- 代金支払を実際に銀行振込で行っているか
- 税務署からの「みなし贈与」指摘に備え、説明資料を保存しているか
- 株主総会議事録・株主名簿を更新済みか
・まとめ
低額譲渡は、うまく使えば「株価上昇益を税負担なしで後継者に移す」という強力な承継手法です。
しかし、根拠なき価格設定は一瞬で“贈与認定されるリスクを孕んでいます。
節税と脱税の境界は、「合理的な価格算定」と「実際の支払」の2つで決まります。
この2点を徹底しておけば、税務署も納得する“グレーを白に変える節税が可能です。

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