前払い退職金で純資産を圧縮し、自社株評価を下げる
〜退職金を「早めに計上」して、株価と税負担を両方コントロール〜
事業承継で自社株評価が高すぎる場合、相続税や贈与税の負担が一気に膨らみます。
しかし、純資産の中でも“利益剰余金を調整できれば、株価を自然に抑えることが可能です。
その代表的で合法的な手法が「前払い退職金」。
・仕組みの基本
退職金は、経営者や役員が退職時に支払う金銭で、支給決定時に損金算入できます。
つまり、退職予定者に対して「将来支払う退職金の一部または全額を、在職中に前払いする」と、その支出分だけ会社の利益・純資産を減らせるのです。
法人税法上も「退職の事実があり、支給額が合理的」であれば損金算入が認められています。
ただし、“まだ退職していない役員に支払う場合は慎重な要件確認が必要です。
・実務での使い方(安全に行うポイント)
退職金規程を整備する
「支給基準・支給額算定方法・前払制度の可否」を明記しておく。
→ 社内規程があるだけで“恣意的支給の疑念を避けられる。
退職金見込額を算定する
最終役員報酬×勤続年数×功績倍率(一般に1.5〜3.0倍)で算出。
→ この算式に基づく金額なら、税務否認リスクが低い。
前払いの根拠を明確化する
体調不安・経営承継計画・役職縮小などの合理的理由を議事録に記載。
→ 「実質的な退職(職務軽減)」を説明できることが重要。
支払い方法の工夫
全額ではなく、退職見込額の50〜70%を先払いする形が多い。
支給後は役職変更・役員報酬の引下げを行い、形式的にも退職扱いに近づける。
・税務の位置づけ(合法の範囲)
損金算入が認められるのは「支給の確定」「合理性」「実質退職性」の3条件を満たす場合。
「退職後に支払う前提が崩れていない」
「支給額が功績に比して過大でない」
「職務が軽減されている」―この3点を明確に。
逆に、「在職中の単なるボーナス扱い」「功績倍率が高すぎる」「社内規程がない」などは否認されやすい。
・実務効果(評価面)
- 純資産価額法で評価する非上場株式では、利益剰余金が株価に直結。
- したがって、退職金を前払いして剰余金を減らすと、 自社株評価(1株あたり価額)が下がる。
- 同時に法人税負担も減少。
- 将来、相続・贈与で株式を移す際の税額も軽くなる。
・チェックリスト(実行前に必ず)
- 役員退職金規程を整備し、支給基準が明記されているか。
- 支給対象者の勤続年数・報酬履歴・功績倍率を一覧化したか。
- 前払い理由(健康、承継準備、役職縮小など)を議事録で説明できるか。
- 税理士の意見書または支給額算定書を添付しているか。
- 支給額が功績倍率3.0倍を超えていないか。
- 支払い後、役員報酬や職務内容を変更しているか(形式面の退職性確保)。
- 退職金前払いによる純資産・株価の下落試算をExcelで確認済みか。
・まとめ
「前払い退職金」は、説明可能な“合法的株価コントロールの代表例です。
節税というより、事業承継計画の一環としての経営判断と位置づけることが大切です。
節税とは“理由のある支出を設計すること。
規程と議事録を整えれば、堂々と使える王道手段です。

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