自社株を「低額譲渡」して後継者へ渡す
―魅力と落とし穴
〜「今は安く渡して、将来の値上がり分だけを渡す」。
一見スマートだが税務の目は厳しい〜
1) スキームの要旨(ワンポイント)
オーナーが現時点で自社株を時価より低い対価で後継者(子・親族・後継者会社)に売却する。
形式上は売買だが、差額(時価 − 実際の対価)を「実質的な贈与」と見なせば、贈与税や相続税等の課税対象となる。
目的は「相続発生時に高い株価で課税されるのを避け、将来の値上がり分を後継者に渡す」こと。
→ 要は「税を先送り/移転する狙い」が明白なため、税務当局が厳しく見る典型的グレー手法です。
国税当局の基本的立場は『著しく低い対価で取得した分は贈与とみなす』ことです。国税庁
2) なぜ“グレーなのか(税務理屈)
国税当局は、「形式」より「実質」を重視します。形式的に売買契約があっても、経済的実態が「無償で譲ったのと同じ」なら贈与に該当する、という考え方です。
具体的な取り扱いとしては:
個人→他者へ著しく低い価額で財産を譲渡した場合、差額部分を贈与とみなす(贈与税)。
さらに、同族会社や三者間での低額売買は、会社の純資産構成を変化させることで既存株主に利益(含み益)を生じさせ、相続税法上の「みなし贈与」の対象となる場合がある。
3) 実務でよくある手口(短く)
- オーナー→後継者(子)に、時価1,000万円の株を300万円で売る。
- 族内で資金は循環し、会社の実態は何も変わらない(管理・事業はオーナー主導のまま)。
- 面上は「現金化」だが、税務調査で「差額700万円は贈与」とされ追徴される。
4) 判例・通達のポイント(税務当局のチェック観点)
税務当局・裁判例は「時価」と「譲渡対価」の乖離を重視。
評価通達や判例では、時価に比べ著しく低い対価(ケースにより『時価の2分の1』を一つの目安)であれば否認されやすいとの指摘があります。
また、三者間取引(会社を介した低額譲渡)では、会社の純資産が事実上増減する構造を税務当局は鋭く見るので、発覚リスクが一層高まります。
5) 発覚するとどうなるか(帰結)
- 実務的には次が想定されます:
- 差額分の贈与税の追徴(個人譲渡の場合)。
- 同族会社の関係で「みなし贈与」や「行為計算否認」により法人・株主に対する課税調整。
- 悪質と判断されれば重加算税や延滞税も付される。
- 民事的には他相続人との争い(遺留分・不公平の主張)や会社内トラブルも発生しやすい。
結局、短期的な「見かけの節税」は長期的なコスト(税+利息+信頼損失)で大きく上回ることが多いです。
6) 実務で「グレーに見える」条件(税務が疑うパターン)
- 譲渡直前後に経営実態が変わらない(後継者は名義だけ、オーナーが実質支配)。
- 支払手段が不明瞭(口座振替で戻される等)。
- 譲渡価格の根拠がない(評価書・鑑定がない)。
- 譲渡後すぐに株式が回収・売却されるか、会社資金で買戻されるスキームがある。これらが揃うと税務は極めて厳しく判定します。
7) 合法的/説明可能な代替案(“白い選択肢)
低額譲渡に手を出す前に、次の方法を検討してください。
税務上の説明力が高く、実務でもよく使われます。
- 前払い退職金・保険での備え(退職金を前倒しで損金にすることで純資産を調整)。
- ストックオプション(新株予約権):権利を付与して将来の値上がり分を後継者に移す(課税タイミングと扱いに注意)。
- 種類株式や議決権制限株の導入:経済的利益と支配を切り分け、評価面をコントロール(定款整備必須)。
- 自社株買い(会社が買い取る):株主整理と現金化を同時に行う、手続き・資金が整っていれば有効。
適正評価に基づく段階的売買(時価での分割売却):
鑑定書を取り、段階的に移転する。
→ どれも「実態を伴う」「第三者の意見書や評価を残す」「説明責任を果たす」点で共通しています。
8) 実務的な最小限の防御(やるなら必ず残すもの)
第三者評価(鑑定書/税理士算定):
時価算定根拠はマスト。
明確な対価の資金移動(銀行振込):
現金授受の「見える化」。
売買契約書+議事録(取締役会・株主総会):
手続の正当性を記録。
譲渡の合理的理由(承継計画書):
なぜ低額で実行したのかの説明(事業承継計画・資金需要等)。
税理士の事前意見書:
税務リスク評価と見解を文書化。
これらがないと、調査が来たときに「後から作った資料」として信用されない危険があります。
9) (実務)チェックリスト — 実行前に必須
- 株価評価書(外部または税理士算定)を取得しているか。PwC
- 譲渡対価の支払が銀行振込で完了しているか(領収書・通帳コピー保管)。
- 取締役会・株主総会の議事録を作成し、譲渡理由を明確にしているか。
- 承継計画書(目的・スケジュール・代替策)を文書化しているか。
- 税理士の事前意見書(贈与認定リスク)を取得しているか。
- 家族・他相続人に対する説明(公平性)をどうするかの計画はあるか。
- 万が一の税務否認時に対応する資金(追徴+延滞税)を確保しているか。
10) 結論
低額譲渡は短期的に魅力的に見える手口ですが、税務当局の考え方は明確で、差額=贈与と認定されるリスクが高いです。
国税のタックスアンサーや判例・通達もこの点を繰り返し指摘しています。
実務で安全に進めるには「なぜその価格なのか」を説明できる客観的評価と実務的実態が不可欠です。
安易に“安く渡すことは避け、まずは上で挙げた「白い代替案」や評価・議事録・税理士レターをそろえることを強く勧めます。

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