受取人変更を忘れると、相続より先に家族がもめることがある
生命保険というと、多くの人は「いくら保障が出るのか」「今の保障額で足りるのか」を気にします。
もちろんそれも大切ですが、実務の現場でそれ以上に揉めやすいのが、「誰が受け取ることになっているのか」という受取人の問題です。
契約した当時はそれで自然だったとしても、年月が経つと家族の形は変わります。
離婚、再婚、子どもの独立、配偶者の死亡、親との同居、介護の有無など、家庭の事情は想像以上に変化します。
ところが、生命保険の受取人は、一度決めるとそのまま何年も見直されないことが珍しくありません。
普段は保険証券を開く機会が少ないため、本人も「たしか妻にしていたはず」「たぶん今の家族で大丈夫だろう」と思い込んでしまいます。
ですが、保険は思い込みでは動きません。実際には、証券や契約情報に書かれている内容どおりに処理されます。
そのため、本人の頭の中では「今の妻に渡るつもり」でも、契約上は前妻が受取人のまま、ということが起こり得ます。
実例としてよくあるのが、再婚後の受取人未変更です。
前の結婚の時に加入した生命保険があり、その受取人が前妻のままだったとします。
本人は再婚後、家計も今の妻と一緒にしており、「自分に万一のことがあれば当然今の家族の生活費に使われる」と思っていたとしても、契約上の受取人が前妻なら、原則としてその保険金は前妻側に支払われることになります。
残された現在の家族から見れば、「なぜ今の生活を支えていたはずのお金が入らないのか」という不満が強く出ますし、前の家族側も「契約どおり受け取るのは当然」と考えるため、感情のもつれは深くなりやすいのです。
しかも生命保険金は、相続財産と完全に同じ扱いになるとは限らず、受取人固有の権利として整理される場面も多いため、「遺産分割で調整すればよい」と簡単にいかないことがあります。
法律上の整理と、家族の納得感は別問題です。
法的には契約どおりでも、残された家族が心情的に納得できなければ、その後の遺産分割協議や親族関係に強いしこりが残ります。
また、離婚や再婚のような大きな出来事だけでなく、
「子どもが独立した」
「配偶者が先に亡くなった」
「高齢になり世話をしてくれる人が変わった」
といった事情も、受取人見直しのきっかけになります。
昔は長男を受取人にしていたが、今は長女が親の生活を実際に支えている、ということもあります。
そうした現実の生活関係と、保険契約上の受取人がずれてくると、死亡後に「気持ちとしてはそうではなかったはずだ」という争いが起きやすくなります。
保険の見直しというと、保険料を下げる話や保障額の増減ばかりに目が向きがちです。
しかし本当に先に確認すべきなのは、受取人欄です。
見直しにお金も専門知識も必要ありません。
まずは証券や契約内容のお知らせを開き、「いま誰が受取人になっているか」を確認するだけでも大きな意味があります。
家族関係に変化があったなら、その時点で一度立ち止まって見直すべきです。
生命保険は、残された家族を助けるためのものです。
ところが受取人変更を忘れるだけで、その保険が家族を助けるどころか、家族関係を壊す火種になってしまうことがあります。
保険証券を見たら、まず保障額ではなく受取人欄を見る。
これが争いを防ぐ最初の実務です。

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