夫の葬儀で子どもがこぼした一言
その言葉をきっかけに、終活を始めた母の話
ある地方都市で一人暮らしをしている60代後半の女性がいます。
数年前に夫を亡くし、今は離れて暮らす子ども夫婦と孫がいます。
夫は会社勤めが長く、地域や仕事のつながりも広い人でした。
そのため、葬儀には親族だけでなく、仕事関係や知人など多くの人が参列しました。
にぎやかで、夫が多くの人に支えられて生きてきたことを感じられる場でもあり、女性にとってはありがたい時間だったそうです。
一方で、喪主を務めた子どもにとっては、事情が少し違っていたようです。
葬儀が終わり、親族だけで食事をしていた場で、子どもがふと「葬儀って、本当に大変なんだね」と漏らしました。
責めるような言葉ではありません。
むしろ、率直な感想だったのでしょう。
けれど、その何気ない一言が、女性の心に強く残りました。
「自分が亡くなったとき、同じような大変さをまた子どもに背負わせたくない」
そう思ったことが、女性にとって終活の始まりになりました。
終活は“自分のため”だけではない
終活というと、自分の最期に向けた準備という印象が強いかもしれません。
もちろんそれも大切ですが、実際には残される家族の負担を減らすための準備という面がとても大きいといえます。
女性はその後、エンディングノートを購入し、自分の財産や連絡先、希望する葬儀の形などを少しずつ書き始めました。
また、終活セミナーにも参加し、葬儀や相続について情報を集めるようになりました。
その中で、特に気になったのが葬儀の形式と費用です。
子どもにできるだけ負担をかけたくないと考えた女性は、複数の葬儀社に相談し、自分が希望する規模ならどれくらい費用がかかるのかを確認しました。
結果として、比較的小規模な家族葬であれば、ある程度予算の目安が立つことが分かり、「なるべく大きくせず、予算もこの範囲に収めたい」という希望を家族に伝えることにしたそうです。
家族葬は気楽そうで、実は悩みも多い
最近は、一般葬よりも家族葬を選ぶ人が増えています。
規模を小さくできること、費用を抑えやすいこと、近しい人だけで静かに送れることなどが理由です。
たしかに、家族葬には多くのメリットがあります。
ただ、家族葬なら何も問題が起きないかというと、そうとも限りません。
実際には、家族葬ならではの悩みやトラブルもあります。
1 思ったより費用がかかる
「家族葬なら安いはず」と思っていたのに、終わってみたら予想より高くなっていた。
こうした話は珍しくありません。
理由のひとつは、広告や案内で見た金額が、あくまで最低限の基本プランであることです。
実際には、祭壇、安置日数、会食、返礼品、搬送、宗教者へのお礼など、追加で費用が発生することがあります。
そのため、相談の段階では概算だけでなく、できるだけ具体的な見積もりを取ることが大切です。
2 香典や参列の対応で戸惑う
家族葬では「香典辞退」「親族のみで執り行います」と案内することがあります。
それでも、故人と親しかった方が「最後にお別れをしたい」「気持ちだけでも伝えたい」と訪れることがあります。
このとき、受け取るのか、お断りするのか、誰まで案内するのか、家族の中で考えが分かれることがあります。
小さく行うつもりだったのに、結果として思ったより対応が増えることもあります。
だからこそ、家族葬にするなら、どこまでを家族と考えるか、誰にどう伝えるかを事前に家族で話しておくことが大切です。
親と子で、葬儀への感覚は違いやすい
終活の相談現場では、親世代と子世代で葬儀に対する感覚が違うことがよくあります。
親世代は、自分がこれまで見送る立場を経験してきた分、「なるべく簡素に」「お金をかけすぎずに」と考える傾向があります。
一方で、子世代はまだ当事者意識が薄く、どこまで準備が必要なのか、何を基準に決めればよいのか分からないことも少なくありません。
そのため、何も話し合わないままその時を迎えると、残された家族が短時間で大きな判断をしなければならなくなります。
葬儀の規模、連絡先、宗教的な希望、予算、香典の扱いなど、決めることは意外に多いのです。
円満な形を目指すために大切なこと
葬儀に絶対の正解はありません。
大きく送るのが正しいわけでも、小さく送るのが正しいわけでもありません。
大切なのは、本人の希望と家族の現実が、ある程度すり合っていることです。
そのために役立つのが、次のような準備です。
・エンディングノートに希望を書いておく
・家族にその存在を伝えておく
・複数の葬儀社に相談しておく
・概算ではなく見積もりを取る
・家族葬にするなら、親族への説明方針も決めておく
・費用の準備をどうするか考えておく
終活は、死を考える暗い作業ではありません。
むしろ、残される家族が困らないようにするための、前向きな整理といえます。
夫の葬儀で子どもがこぼした一言は、決して冷たい言葉ではなく、現実の重さを表したものだったのでしょう。
そして、その一言があったからこそ、女性は「自分のときは、家族が少しでも迷わないようにしておこう」と考えるようになりました。
終活は、元気なうちだからこそ落ち着いてできます。
家族のために何を残すか。何を減らすか。
それを考えることが、いちばんやさしい終活なのかもしれません。

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