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お金を受け取ったのに品物を渡さないのは通るのか。

 

 お金を受け取ったのに品物を渡さないのは通るのか。

 「入金はされたけれど、やっぱり渡したくない」は危ない判断です

 

 売買のトラブルというと、高額な不動産や自動車の話を思い浮かべる方が多いかもしれません。

 しかし実際には、もっと身近な場面でも起こります。

 中古の農機具、骨董品、ネットで売った品物、知人に譲る予定の家具、事業用の備品など、「代金は受け取ったのに物を渡さない」という争いは意外に多いのです。

 

 一般の方がまず押さえておきたいのは、売買契約では、売る側には“物を引き渡す義務”、買う側には“代金を支払う義務”が生まれる という基本です。

 法務省の教材でも、売買契約では売主に商品を引き渡す義務、買主に代金を支払う義務が生じると説明されています。 

 つまり、代金だけ受け取って、あとから

  • 「やっぱり気が変わった」
  • 「もっと高く売れそうだからやめる」
  • 「知り合いだから少し待って」

といって物を渡さないのは、軽く見てはいけない問題です。

 場合によっては、履行請求、損害賠償、解除などの話に発展します。

 法務省の改正民法の説明資料でも、契約内容に合った物が引き渡されない場合などに、買主は追完請求、損害賠償請求、解除、代金減額請求があり得ると整理されています。 

 

 事例

 市内で小さな倉庫を整理していたAさんは、使わなくなった除雪機を手放すことにしました。

 知人の紹介で、Bさんが「ちょうど探していた。12万円で譲ってほしい」と申し出ました。

 Aさんも「それでいいですよ」と答え、Bさんはその場で半額を振り込み、残りも数日後に支払いました。

 ところが、全部入金されたあとで、別の知人から「その除雪機ならもっと高く売れる。今なら18万円でも買う人がいる」と言われます。

 Aさんは急に惜しくなり、Bさんに

  • 「もう少し待ってほしい」
  • 「家族が反対している」
  • 「やっぱり売るのをやめたい」

と言い出しました。

 Bさんとしては、代金はすでに全額払っています。

 冬前なので早く受け取りたく、除雪の予定も立てていました。

 それなのにAさんは品物を渡そうとしません。

 Aさんは「お金は返せばいいだろう」と軽く考えていましたが、Bさんから見ると、約束した物を受け取る権利そのものが侵害されている わけです。

 

 なぜ「お金だけ返せば済む」とは限らないのか

 ここで大切なのは、売買契約は「お金を払うかどうか」だけの約束ではないということです。

 法務省の解説どおり、売買契約では、売主は物を引き渡す義務を負い、買主は代金を支払う義務を負います。これはセットです。 

 そのため、買主が代金を支払ったのに、売主が物を渡さない場合、買主は単に「返金してください」と言うだけではなく、

  • 約束どおり引き渡してください
  • それが無理なら損害を賠償してください
  • 契約を解除します

といった主張をする余地があります。 

 たとえば、除雪機の例なら、Bさんは冬に使うためにその機械を必要としていたのかもしれません。

 そのため、Aさんが「じゃあ返金するから終わりでいいでしょう」と言っても、Bさんは別の除雪機を探す手間、価格上昇、予定変更などの不利益を受けます。

 つまり、売る側の気変わりで、買う側の予定や利益が崩れる のです。

 

「まだ渡していないから、やめても同じ」ではない

 ここも一般の方が誤解しやすいところです。

 品物をまだ引き渡していないと、売る側は

「手元にあるのだから、まだ自分の自由ではないか」

と感じがちです。

 しかし、契約が成立していれば、もう単なる“気分の問題”ではありません。

 法務省の教材でも、契約は合意で成立し、書面がなくても成立し得ると説明されています。

つまり、

「これをこの値段で売る」

「それで買います」

という合意があれば、あとはその内容どおりに動く義務が生まれるのです。 

 もちろん、相手が代金を払わない、引取りに来ない、別の条件違反がある、といった事情があれば話は別です。

 ですが、買主がきちんと代金を支払っているのに、売主側だけが「惜しくなった」「もっと高く売れそうだ」と考えて止めるのは、とても危うい判断です。

 

 よくあるのは「知人だから曖昧でも大丈夫」という失敗

 この種のトラブルは、業者間よりも、むしろ個人同士や知人間で起きやすいです。

 理由は単純で、条件をはっきり決めずに進めてしまうからです。

  • 引渡日はいつか
  • どこで渡すのか
  • 動作確認はどうするのか
  • 故障があった場合はどうするのか
  • キャンセルするならどう扱うのか

こうした点を決めないまま、先に入金だけしてしまうと、後で揉めやすくなります。

 しかも人は、お金や品物が目の前にあると、手放したくなくなる傾向があります。

 行動経済学でいう“保有効果”に近く、自分の手元にある物を実際以上に高く見積もりやすいのです。

 そのため、売ると決めたはずの物でも、後から「やっぱり惜しい」と感じやすくなります。

 これは人間として自然ですが、契約をした以上、そこは切り分けて考える必要があります。

 

 では、どうすれば防げるのか

 防ぎ方は、実はそれほど難しくありません。

 売る側も買う側も、最低限、次の点を文字で残すことです。

  • 何を売るのか
  • 金額はいくらか
  • 代金はいつ払うか
  • 物はいつ、どこで渡すか
  • キャンセル時はどうするか

 LINEやメールでも十分役立ちます。

 たとえば、

「除雪機1台を12万円で譲ります。入金確認後、4月20日に現地で引渡し」

と残しておくだけでも、後の争いはかなり減ります。

 また、売る側は、入金前に本当に手放す覚悟があるかを確認したほうがよいです。

 

 「先にお金だけ受け取って、あとで考える」は一番危ない進め方です。

 一番まずいのは「代金を返せばそれで終わる」と思うこと

 売買は、単なるお金のやり取りではありません。

 物を渡すことまで含めて、はじめて契約どおりです。法務省の解説でも、売買契約は引渡し義務と代金支払義務が対になっています。 

 だからこそ、代金を受け取ったのに物を渡さないというのは、

 「まだ渡していないだけ」ではなく、「契約上の義務を果たしていない」

という問題になります。

 知人同士だと、「あとで返せばいい」「そのくらいで大げさだ」と軽く見がちです。

 ですが、相手はその物を受け取れる前提で予定を組み、お金も動かしています。

 そこを崩せば、信頼も失います。

 売ると決めたなら、受け取った代金に見合う責任が生まれます。

 お金を受け取るとは、品物を渡す覚悟まで含めて受け取ること。

 この感覚を持つだけで、売買のトラブルはかなり減らせます。