家賃滞納だからといって、勝手に鍵を替えてはいけない。
「自分の物件なのに、なぜダメなのか」をわかりやすく解説
アパートや貸家を持っている人の中には、借主が長く家賃を払わないと、「もう出て行ってもらうしかない」「自分の物件なのだから、鍵を替えて入れなくしてもいいのでは」と考える人がいます。
気持ちとしては、たしかにそう思いたくなるでしょう。
何か月も滞納され、連絡もつかず、室内の様子もわからないとなれば、貸主としては不安にも怒りにもなります。
しかし、ここで感情のままに動いてしまうと、逆に貸主のほうが法的に不利になることがあります。
特に注意したいのが、借主がまだ部屋を使っているのに、貸主が勝手に鍵を替えてしまう行為 です。
これは「自力で追い出す行為」と見られやすく、後で大きなトラブルになることがあります。
事例
市内で古いアパートを所有しているAさんは、借主Bさんから3か月分の家賃を滞納されていました。
電話しても出ず、手紙を出しても返事がありません。
Aさんは「もう我慢できない。
このままでは損が増えるだけだ」と考え、ある日、管理会社を通さずに自分で鍵屋を呼び、Bさんの部屋の鍵を交換してしまいました。
その日の夜、Bさんは仕事から戻ってきましたが、鍵が開きません。
室内には衣類や通帳、仕事道具、薬などが残ったままです。
Bさんは驚いてAさんに連絡し、「中に入れない。勝手に鍵を替えるのはおかしい」と抗議しました。
Aさんは「家賃を払わないほうが悪い。もう住まわせない」と言い返しました。
ところが、その後、Bさんが弁護士に相談したことで話は一変します。
Aさんは「貸主なのに勝手な追い出しをした」として、損害賠償を請求される可能性が出てきたのです。
なぜダメなのか
ここで多くの人が引っかかるのは、
「自分の建物なのに、なぜ自分で入れなくしてはいけないのか」
という点です。
たしかに、建物の所有者は貸主です。ですが、賃貸借契約が続いている間、その部屋を使う権利は借主にもあります。
借主は家賃を払う義務を負う一方で、その部屋を生活の拠点として使う権利を持っています。
たとえ家賃滞納があっても、貸主がいきなり実力で占有を奪ってよいわけではありません。
つまり、
- 家賃を払わないことと
- 勝手に部屋に入れなくすること
は、別の問題です。
借主に落ち度があっても、貸主が法的手続きを飛ばして実力で排除すると、別の違法行為と評価されやすくなります。
これを一般には「自力救済は原則として危険」と考えるとわかりやすいでしょう。
どんな不利益が起きるのか
貸主が勝手に鍵を替えると、次のような問題が起こります。
まず、借主が室内にある自分の荷物を取り出せなくなります。
衣類、財布、スマートフォンの充電器、通帳、印鑑、仕事道具、常備薬など、日常生活に必要なものが取り出せなければ、生活そのものに支障が出ます。
その結果、「ホテル代がかかった」「仕事に行けなかった」「薬が飲めず体調が悪化した」などの損害を主張されることがあります。
また、貸主と借主の信頼関係は完全に壊れます。
本来なら、滞納の証拠をそろえ、催告をし、契約解除の手続きを踏み、必要なら裁判所を通じて明渡しを求めるべきところを、途中を飛ばしてしまっているからです。
そのため、せっかく借主の滞納という有利な事情があったのに、貸主側も責任を問われ、話が複雑になります。
では、どうすればよいのか
感情で動かず、順番を守ることが大切です。
基本は次の流れです。
- まず、滞納額と期間を確認し、督促の記録を残します。
- 次に、内容証明郵便などで支払いを求め、期限を切って催告します。
- それでも改善しなければ、契約解除が可能かを検討します。
- さらに、任意に退去しない場合は、裁判や明渡しの手続きを進めます。
- 最終的に、必要なら強制執行という流れになります。
回り道のように見えますが、実はこれが一番安全です。
急いで鍵を替えてしまうと、あとで貸主のほうが説明に追われ、余計な損失や争いを抱えることになります。
一番怖いのは「正しい気持ち」で間違った行動をすること
貸主が怒るのは当然です。
家賃を払わない借主に不満を持つのも当然です。
しかし、法律は「腹が立つなら実力で解決してよい」とは考えていません。
むしろ怖いのは、自分は正しいと思っているときほど、手続きを飛ばしやすい ことです。
「相手が悪いのだから、このくらいしてもいいだろう」という判断が、後で大きな不利益につながります。
家賃滞納は、確かに深刻な問題です。
ですが、だからこそ、貸主側も冷静に、証拠と手順で進める必要があります。
“自分の物件だから自由にできる” ではなく、“自分の物件だからこそ、正しい手順で守る”。
この視点を持つだけで、無用なトラブルはかなり減らせます。

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