家賃滞納でも、借主の荷物を勝手に外へ出してはいけない。
「もう出ていってほしい」が、貸主側の落とし穴になることがあります
賃貸アパートや貸家のトラブルで、貸主側がつい考えてしまう行動の一つに、借主の荷物を勝手に部屋の外へ出してしまう というものがあります。
家賃を何か月も払わない、連絡も取れない、近所から苦情も来ている。
そんな状況になれば、「もう我慢の限界だ」「荷物だけ出してしまえば、部屋を明け渡したのと同じではないか」と思う人がいても不思議ではありません。
しかし、この行為はとても危険です。
たとえ借主に家賃滞納があったとしても、貸主が勝手に荷物を処分したり、外へ運び出したりすると、後で貸主側が責任を問われることがあります。
一見すると「払わないほうが悪い」と思えますが、法律の見方はそれほど単純ではありません。
お金の問題と、荷物の扱いの問題は、分けて考えなければならないからです。
事例
天童市で小さなアパートを経営しているAさんは、借主Bさんから4か月分の家賃を受け取れていませんでした。
電話にも出ず、郵便も返ってきません。
夜に部屋の明かりがつくことも少なくなり、Aさんは「もう住んでいないのではないか」と感じていました。
ある日、Aさんは知人に手伝ってもらい、合鍵で部屋を開け、中に残っていた家具、布団、衣類、段ボール箱などを廊下と建物の外へ運び出しました。
「 放っておけばこちらが困る。部屋を片づけて次の入居者を入れたい」という気持ちからでした。
ところが、数日後、Bさんが突然戻ってきました。
Bさんは、体調を崩して実家に戻っていたものの、部屋を解約したつもりはありませんでした。
外に出された荷物の一部は雨で濡れ、衣類は汚れ、箱の中の書類も使い物にならなくなっていました。
さらに、見当たらない物もありました。
Bさんは「家賃を払えていなかったのは申し訳ないが、勝手に荷物を出すのはおかしい」と強く抗議しました。
Aさんとしては、「払わない人にそこまで言われる筋合いはない」と思ったのですが、ここで問題になるのは、借主の荷物は借主の財産だ という点です。
なぜ勝手に出してはいけないのか
家賃を滞納している借主には、もちろん責任があります。
しかし、それだけで借主の家具や衣類、生活用品、書類などを貸主が自由に扱ってよいことにはなりません。
借主の荷物は、たとえ部屋の中に置かれていても、借主自身の所有物です。
貸主は建物の所有者であっても、借主の荷物の所有者ではありません。
つまり、部屋を貸していることと、中にある物を自由に動かしてよいことは別の話です。
ここで貸主がやってしまいがちなのは、
「部屋は自分の物なのだから、中の物も処理してよいのではないか」
という考え方です。
ですが、これはかなり危ない発想です。
特に次のようなことをすると、問題が大きくなります。
- 荷物を外に出す
- 他の場所に勝手に移す
- 鍵付き倉庫に保管して返さない
- 古そうだからと判断して処分する
- ゴミだと思って捨てる
こうした行為は、借主から見れば「自分の財産を勝手に触られた」「必要な物を失った」ということになります。
その結果、損害賠償の話に発展しやすくなります。
実際には何が問題になるのか
まず大きいのは、荷物が傷んだり、失われたりすること です。
外へ出した時点で、雨に濡れる、風で飛ぶ、第三者に持っていかれる、壊れる、汚れるといった危険が出てきます。
貸主が「そんな大事な物とは思わなかった」と言っても通りません。
さらに、荷物の中には日常生活に必要な物が多く含まれます。
着替え、通帳、印鑑、保険証、薬、仕事の道具、思い出の写真、役所への提出書類など、人によって重要性はさまざまです。
貸主にとっては「ただの段ボール」に見えても、本人にとっては代えのきかない物かもしれません。
もう一つ見落としやすいのは、貸主の立場が弱くなること です。
もともとは借主の家賃滞納が出発点だったのに、貸主が勝手に荷物を動かしたことで、今度は貸主側の行為が争点になります。
その結果、「どちらが悪いか」が単純ではなくなり、話がこじれやすくなります。
「もう住んでいないように見えた」は危ない
現場では、貸主側がよくこう言います。
- 「郵便物もたまっていた」
- 「電気がついていなかった」
- 「何日も帰ってきていないようだった」
- 「実質的には出て行ったと思った」
気持ちはわかりますが、これも慎重に考えなければいけません。
生活の事情は人それぞれで、入院、出張、実家への一時帰省、介護、仕事の都合などで部屋を空けることは普通にあります。
見た目だけで「もう使っていない」と決めつけるのは危険です。
しかも、たとえ本当に長く不在だったとしても、適法な手続きを踏まずに荷物を勝手に外へ出してよい理由にはなりません。
では、貸主はどう動けばよいのか
大切なのは、怒りを行動に変える前に、証拠と順番を整えること です。
まず、滞納額、督促の経過、連絡の記録を残します。
次に、文書で支払いを求め、必要に応じて契約解除の意思表示を検討します。
それでも任意に明け渡さない場合は、裁判所を通じた明渡しの手続へ進みます。
そして、最終的に強制執行の場面になって初めて、適法な形で室内の物の扱いが問題になります。
遠回りに見えますが、これが結局は一番安全です。
逆に、荷物を先に動かしてしまうと、その瞬間から貸主側にも新たな火種が生まれます。
一番まずいのは「片づけただけ」と軽く考えること
貸主としては、「捨てたわけではない。外に出しただけだ」「片づけたにすぎない」と思うことがあります。
しかし、借主から見れば、それは生活の土台を勝手に崩されたのと同じです。
特に賃貸トラブルでは、貸主が“少しだけ手を出したつもり”でも、後から大きな責任問題になることがあります。
家賃滞納で困っているときほど、早く前へ進みたくなりますが、そこで実力行使に出ると、かえって問題が増えます。
借主が悪いことと、貸主が何をしてもよいことは同じではありません。
この線引きを忘れないことが、賃貸トラブルを大きくしない一番のコツです。

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