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頼まれていないのに「本人の代理です」と契約すると、どうなるのか。

 

 頼まれていないのに「本人の代理です」と契約すると、どうなるのか。

 “家族だから”“知り合いだから”で勝手に話を進めると、契約そのものが揺らぐことがあります

 

 日常では、本人ではなく、家族や知人が前に出て話を進める場面がよくあります。

 親の代わりに不動産の話をする。夫の代わりに契約条件を決める。

 会社の社長の代わりに従業員が話をまとめる。

 高齢の親に代わって子が業者とやり取りする。こうしたことは珍しくありません。

 ところが、ここで気をつけたいのが、「話をしていた」ことと、「正式に代理する権限がある」ことは別だ という点です。

 

 民法では、他人の代理人としてした契約は、本人がその効果を受けるのが原則ですが、それはきちんと代理権がある場合の話です。

 無権代理、つまり権限がないのに代理人として契約した場合、本人が追認しない限り、その契約の効果は原則として本人に帰属しません。

 さらに、無権代理人は相手方に対して履行または損害賠償の責任を負うことがあります。 

 つまり、本人に頼まれていないのに、頼まれた顔で契約をまとめる と、後で

「その契約は本人には効かない」

「話を進めたあなたが責任を取ってください」

という非常にやっかいなことになり得るのです。 

 

 事例

 市内で一人暮らしをしている高齢の母を心配していたAさんは、母名義の空き家を早めに処分したほうがよいと考えていました。

 建物は古く、管理も大変で、近所から草木の苦情も出ていたためです。

 そこでAさんは、近くの不動産会社B社に相談し、

「母もたぶん売る気だと思います」

「私が窓口になります」

「金額さえ合えば進めてください」

と話をしました。

 

 B社は、Aさんが家族であることもあり、本人確認や委任状の有無を深く確認しないまま話を進めました。

 数週間後、購入希望者が現れ、価格や引渡時期まで具体的にまとまり、契約書案もできました。

 Aさんは「母にはあとで話します」と言っていましたが、実際には母は売却に同意しておらず、むしろ「思い出の家だから手放したくない」と考えていました。

 いざ契約段階になって母が内容を知ると、

「そんな話は頼んでいない」

「売るつもりはない」

と強く反対しました。

 すると購入希望者は困ります。

「もう話はまとまっていたのではないか」

「時間もかけたし、ほかの物件も断った」

という思いがあります。

 B社も困りますし、Aさん自身も「家族だから問題ないと思っていた」と戸惑います。

 このとき問題になるのが、Aさんに本当に母を代理する権限があったのか という点です。

 

 なぜ“家族が話していた”だけでは足りないのか

一般の方が一番誤解しやすいのは、

「息子なのだから母の代理で動けるだろう」

「妻が話していたのだから夫も了承しているだろう」

「社員が来たのだから会社としての話だろう」

という感覚です。

 ですが、法律上の代理は、そうした雰囲気だけで決まるものではありません。

 民法の基本では、代理権がない者がした契約は、本人が後から追認しない限り、本人には原則として効きません。

 法務省の改正資料でも、無権代理人について、本人の追認がない限り、相手方は無権代理人に対して履行または損害賠償を求めることができると整理されています。 

 つまり、Aさんがいくら「家族だから大丈夫だと思った」と言っても、母が正式に頼んでいなければ、母を売却契約で縛ることは簡単ではありません。

 そして、そのしわ寄せは、相手方や話を進めたAさん自身に向かいます。 

 

「あとで本人に確認すればいい」は危ない

 無権代理が起きやすいのは、最初の段階で

「正式な委任まではないが、たぶん本人もそう言うだろう」

という甘い見込みで進めてしまうからです。

 たとえば、

  • 親族だから意思は同じだろう
  • いつも家族が窓口だから大丈夫だろう
  • 社長が忙しいから社員と話を詰めておけばよいだろう
  • 名義人は来ていないが、後で印鑑をもらえばいいだろう

 こうした進め方は、実務では非常に危険です。

 なぜなら、話が具体化するほど、相手方は「もうまとまった」と期待するからです。

 ところが最後に本人が「そんな話は知らない」と言えば、契約は大きく揺らぎます。

 人は一度話が進むと、「もう後戻りできない」と感じやすくなります。

 そのため、本人確認や代理権の確認を後回しにすると、後から全員が疲れる構図になりやすいのです。

 

 相手方はどうなるのか

 相手方からすると、目の前の人が本当に代理権を持っているかは大きな問題です。

 法務省の改正関係資料でも、無権代理人が本人の追認を得ていない場合、相手方は無権代理人に対して履行または損害賠償を請求し得るとされています。

 もっとも、相手方が代理権がないことを知っていた場合などは話が変わる余地があります。 

 つまり、相手方も「本人ではない人と話している以上、ある程度は確認すべき立場」にあります。

 特に高額な契約、不動産、長期契約、解約しづらい契約では、

  • 委任状があるか
  • 本人確認はできているか
  • どこまでの権限があるのか

を見ずに進めるのは危険です。

「家族です」と言われただけで安心するのは、かなり危ないのです。

 

 では、どうすれば防げるのか

 防ぎ方は意外とはっきりしています。

本人が動かないなら、代理権を確認してから進める。これに尽きます。

一般の方でも、少なくとも次の点を意識するだけでかなり違います。

  • 本人が本当に頼んでいるのか確認する
  • できれば委任状などを取る
  • 何について、どこまで代理できるのかを明確にする
  • 契約の最終段階では、本人確認を省かない
  • 「たぶん大丈夫」で話を進めない

特に不動産やお金の動く契約では、

「窓口になっている人」と

「本当に決める権限がある人」

を分けて考えることが大切です。

 

 一番まずいのは「身内なのだから当然に代理できる」と思うこと

 ここが本当に落とし穴です。

 家族関係が近いほど、本人の意思確認を省略しやすくなります。

 ですが、法律上は、親子だから、夫婦だから、兄弟だからというだけで、何でも当然に代理できるわけではありません。

 無権代理の問題になれば、本人に効かないだけでなく、話を進めた側の責任が浮上します。 

 契約は、誰が決めたのかがとても大切です。

  • 本人が決めたのか。
  • 正式に頼まれた代理人が決めたのか。

 そこが曖昧なまま進む契約は、後で非常にもろいです。

“本人のつもりで動いた”では足りません。

“本人から本当に頼まれているか”まで確認して、初めて安全に進められます。

 この感覚を持つだけで、家族間や知人間の契約トラブルはかなり減らせます。