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侮辱罪が重くなった今、SNSの悪口はどこまで危ないのか。

 侮辱罪が重くなった今、SNSの悪口はどこまで危ないのか。

 「ただの悪口」のつもりでも、刑事事件の入口になることがあります

 

 2022年7月7日から、侮辱罪の法定刑が大きく引き上げられました。

 それまで侮辱罪は「拘留又は科料」でしたが、改正後は1年以下の懲役若しくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留若しくは科料 となりました。

 法務省は、2022年6月13日に成立した改正法のうち、侮辱罪の法定刑引上げ部分が同年7月7日から施行されたと説明しています。 

 

 この改正の背景には、インターネット上の誹謗中傷の深刻化 があります。

 法務省Q&Aでも、近年、ネット上で人の名誉を傷つける行為が社会問題化し、侮辱行為を抑止すべきという意識が高まったことが改正理由として挙げられています。

 つまり、今回の改正は単に条文をいじっただけではなく、「SNS上の中傷を軽く見ない」という法的メッセージ の意味を持っています。 

 

 ここで、まず押さえたいのは、侮辱罪は「事実を示さずに、公然と人を侮辱する罪」 だということです。

 法務省は、不特定または多数の人が認識できる状態で、事実を摘示せずに他人への軽蔑の表示を行うと、侮辱罪の要件に当たり得ると説明しています。

 反対に、具体的な事実を示して人の社会的評価を下げる場合 は、侮辱罪ではなく名誉毀損罪の問題になりやすいです。 

 

たとえば、こんな場面を考えてみてください。

XやInstagramで、特定の相手について

「こいつは人間のクズだ」

「最低の人間」

「こんなやつ社会から消えろ」

などと投稿した場合

地域の掲示板やコメント欄で

「あの店主は本当にバカ」

「あの人は終わってる」

などと書き込んだ場合

 こうした表現は、事実を示しているわけではなくても、相手への軽蔑を公然と表すものとして、侮辱罪の問題になり得ます。

 法務省の整理でも、侮辱罪は「事実を摘示せずに」公然と人を侮辱することが対象です。 

 

 一方で、たとえば

「あの人は売上を横領した」

「この会社は補助金を不正受給した」

のように、具体的事実を挙げる形なら、侮辱罪よりも名誉毀損罪の検討が前に出ます。

 ここは一般の方が混同しやすいところですが、法律上はかなり大事な線引きです。

 法務省Q&Aでも、名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことが要件だと説明されています。 

 今回の改正で大きいのは、これまで侮辱罪が“刑法の中でも最も軽い部類”だったのに対し、今は罰金刑や懲役・禁錮まで視野に入る罪になった ことです。

 法務省Q&Aでは、旧法の拘留は1日以上30日未満の身体拘束、科料は1,000円以上1万円未満の金銭刑であり、侮辱罪は極めて軽い法定刑だったと整理しています。

 そこから一気に引き上げられたわけです。 (法務省)

 ここで、身近な例をもう少し具体的に見てみます。

 たとえばAさんが、地域トラブルで腹を立て、Facebookで実名を出して

「Bは本当にクズ。近所の迷惑。こんな人間は消えてほしい」

と投稿したとします。

 Aさんとしては、「事実を書いたわけではない。ただ感想を書いただけだ」と思うかもしれません。

 ですが、読む側が多数いて、相手を社会的に見下す表現なら、侮辱罪が問題になる余地があります。 

 また、Cさんが店の口コミ欄で

「この店主は最低の人間。無能すぎる」

と書いた場合も同じです。

 サービス内容への具体的な批判ではなく、人格攻撃に寄っていくほど危険度は上がります。

 「料理がぬるかった」「説明が不十分だった」という具体的経験の記述とは違い、人格そのものへの軽蔑表現 は、刑事・民事の両面で火種になりやすいです。 

 法務省も、侮辱罪の処罰範囲自体は改正で変わっていないものの、悪質な侮辱行為に厳正に対処するため法定刑を引き上げたと説明しています。 

 

 もちろん、ここで気になるのが

「批判しただけでも全部アウトなのか」

という点でしょう。

 この点について法務省Q&Aは、政治家への批判なども直ちに侮辱罪になるわけではなく、表現の自由との関係も踏まえて判断されるとしています。

 つまり、社会的な言論や意見表明がすべて犯罪になるわけではありません。

 ただし、意見や批判の形を借りた、ただの人格攻撃 になると危なくなる、という理解が実務的です。 

 この改正から学ぶべきことは、「事実を書いていないから安全」ではない という点です。

 昔は、事実を示していない悪口は「せいぜい軽い罪だろう」と甘く見られがちでした。

 ですが今は、法定刑の引上げによって、捜査や抑止の面でも重みが増しています。

 法務省は、侮辱罪と名誉毀損罪の法定刑差が大きすぎる状態は相当でないとして、名誉毀損罪に準じた方向へ引き上げたと説明しています。 

 

 一般の方が実務上気をつけるなら、次の感覚が大切です。

  • 相手の行為を具体的に批判すること と
  • 相手の人格を公然と踏みにじること は違う
  • 非公開の愚痴と、SNS・掲示板・コメント欄の投稿は違う
  • 匿名アカウントでも安全とは限らない
  • 「みんなも思っている」は免罪符にならない
  • 感情が高ぶったときの一言が、一番危ない

 要するに、今回の改正は、

「ネットの悪口は軽い」

という時代感覚を、法律が明確に修正した改正 だといえます。

 

 批判や意見は自由でも、相手を公然と侮辱してよいわけではありません。

 SNSでは、投稿ボタンを押す前に、

 それは批判か、それともただの人格攻撃か

を一度立ち止まって考えることが、これまで以上に大切になっています。