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契約書を読まずに「聞いてない」と言い張れるのか。

 契約書を読まずに「聞いてない」と言い張れるのか。

 サインした後で困らないために知っておきたい、契約の基本

 

 日常では、契約書を最後までしっかり読む前に、つい署名や押印をしてしまうことがあります。

 不動産の売買、賃貸借、リフォーム、ネット契約、会員規約、事業の委託契約など、場面はさまざまです。

 けれども後になって、想定していなかった条項が出てくると、

「そんな話は聞いていない」

「そこは説明されていない」

「読んでいないから無効ではないか」

と言いたくなることがあります。

 

 ただ、ここでまず押さえたいのは、契約は当事者の合意で成立し、書面がある場合はその内容が非常に重く見られる ということです。

 法務省は、契約は当事者の意思が合致すれば成立し、口頭でも成立し得ると説明しています。

 つまり、書面に署名していればなおさら、「契約した」という評価は強くなりやすいです。 

 

 たとえば、こんな例を考えてみてください。

 Aさんは、自宅の外壁塗装を依頼しようとして業者と打ち合わせをしました。

 説明はざっと聞きましたが、契約書は細かく読まず、業者に言われるまま署名しました。

 後になって契約書を見ると、

  • 途中解約には高額な違約金がかかる
  • 足場費用は別途請求
  • 工期延期の条件が業者側に有利

といった条項が入っていました。

 Aさんは驚いて、

「そんな大事なことは聞いていない」

と抗議しました。

 気持ちはよく分かります。

 ですが、法律の世界では、読まなかったことだけで直ちに契約の効力が消えるわけではない というのが出発点です。

 民法改正の議論資料でも、「契約書の内容を読むことは取引の前提であり、条項を見逃した問題は原則として見逃した側の自己責任として処理される」という考え方が示されています。 

 

 つまり、一般論としては、

「読んでいない」=「拘束されない」

ではありません。

 ここが多くの人のつまずくところです。

 

 人は、説明を聞いた内容だけが契約だと思いやすいのですが、実際には署名した書面全体が契約内容として扱われやすいのです。

 とくに、相手が事業者で、定型的な契約書や約款を使っている場合は、民法上の定型約款の考え方も関わってきます。

 民法548条の2の制度趣旨として、法務省は、定型取引では相手方が条項の細部まで読まないことが通常であることを前提に、一定の条件でその条項が契約内容になると整理しています。 

 

 では、どんな場合でも「読まなかった側が全部負ける」のか というと、そこも違います。

 ここが大切なところです。

 契約書を読んでいなくても争える余地が出るのは、たとえば次のような場面です。

  • 重要な点について、相手が事実と違う説明をした
  • 不利益な条項を意図的に隠した
  • 威圧的に急がせて冷静に確認させなかった
  • 消費者契約法上、取消しの対象になるような不当勧誘があった
  • 一方的に不利すぎる条項で、信義則に反して相手の利益を害する

 消費者庁は、消費者契約法について、事業者による不実告知や断定的判断の提供、不利益事実の不告知などによって誤認してした契約について、消費者が取り消せる場合があると整理しています。

 つまり、単に読まなかっただけでは弱いが、読めないような状況を相手が作っていたなら話は変わる のです。 

 

 たとえば、Bさんが高齢で、難しい専門用語が並ぶ契約書を渡され、

「ここは普通の内容です。皆さんそのままサインしています」

とだけ言われて署名したケースを考えてみます。

 しかも実際には、途中解約で大きな負担が出る条項や、通常より重い支払条件が隠れていたとします。

 このような場合は、単なる「読まなかった自己責任」で終わらず、説明の仕方や勧誘の態様 が問題になる余地があります。

 消費者庁の逐条解説でも、消費者契約法は、消費者と事業者の情報格差を前提に、不適切な勧誘による契約から消費者が離脱しやすくする趣旨を持つと説明されています。 

 

 一方で、Cさんが事業者同士の契約で、十分に読む時間もあり、内容を確認できる状態だったのに、忙しいからと流し読みで押印したような場合は、後から

「聞いてない」

と主張しても通りにくくなります。

 

 とくに事業契約では、消費者契約法の保護がそのまま及ばないことも多く、契約書を読む責任はより重く見られやすい です。

 これは実務感覚として非常に重要です。 

 

 ここで大事なのは、行動経済学的にも、人は

  • 早く終わらせたい
  • 相手を信用したい
  • 面倒な文書を後回しにしたい

という心理が強く働くことです。

 

 そのため、署名する前は「あとで読めばいい」と思い、署名した後に不利な条項に気づく、という流れが起きやすいのです。

 消費者庁の検討会資料でも、合理的な消費者であっても、時間や注意をかけないと契約内容を把握できない場合があることが議論されています。 

 

だからこそ、実務では次の4つが非常に大事です。

・金額

  総額、追加費用、違約金の有無

・解約

  いつ、どんな条件でやめられるか

・責任

  不具合や遅延があったとき誰が負担するか

・期限

  納期、更新、解除通知の期限

 この4つだけでも署名前に確認すると、かなり事故が減ります。

 とくに不動産、リフォーム、継続サービス、サブスク、会員契約では、解約条項と追加費用条項 を見落とすと後で痛いです。

 

 要するに、

契約書を読まずに「聞いてない」と言っても、「原則としては苦しい」

というのが基本です。

 ただし、

相手がごまかした、隠した、急がせた、不当に誘導した

という事情があれば、争える余地は出てきます。 

 

 一番まずいのは、

「読まなくても何とかなるだろう」

という気分で署名することです。

 契約書は、後で揉めたときに一番強い材料になります。

 だからこそ、署名の前には、最低でも

 「お金・解約・責任・期限」

の4点だけは確認する。

 この習慣があるだけで、「聞いてない」では取り返しにくいトラブル をかなり防げます。