退職給与引当金・貸倒引当金の活用
―利益を「上手に先送り」して、会社を守る節税設計―
経営には波があります。
ある年は好調で黒字、翌年は大きな設備投資で赤字─。
このような“利益のブレをそのままにしておくと、税金の支払いも大きく変動し、資金繰りが不安定になります。
そんな時に役立つのが、「引当金による時期調整」です。
なかでも代表的なのが「退職給与引当金」と「貸倒引当金」。
どちらも“将来の支出をあらかじめ経費化することで、税負担を平準化する制度です。
🔹退職給与引当金とは
社員が将来退職するときに支払う退職金を、あらかじめ一部を経費として計上しておくことができる制度です。
退職金は多額かつ一時的な支出になることが多く、「支払う年に全額経費」とすると、その年だけ赤字に。
逆に、利益の多い年に少しずつ計上しておけば、税金を抑えながら準備もできます。
法人税法では、退職給与引当金の計上限度額が定められており、
- 使用人(従業員):期末時点の支給見込額×40%
- 役員:対象外(退職給与引当金には含めない)
といったルールがあります。
また、税法上は現在、引当金としての損金算入は原則廃止されていますが、「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」などを活用すれば、実質的に同様の“将来費用の前倒し損金化が可能です。
🔹貸倒引当金とは
取引先に対する売掛金・貸付金などが将来回収不能になるリスクに備え、その一部を「貸倒引当金」として損金算入する制度です。
中小企業の場合、
- 一般債権(通常の取引):期末残高の5.5%まで
- 特定債権(期限延長・貸付等):個別に見積り
を上限に経費化できます。
例えば、売掛金1,000万円なら、55万円を損金計上可能。
これにより、今期の課税所得を減らし、税負担を軽減できます。
🔹実際の活用例
山形市で小売業を営むJ社は、毎年安定黒字。
しかし、年によって売掛金の回収率に差があり、税務上の利益が大きくブレていました。
顧問税理士の助言で貸倒引当金を導入し、期末残高1,200万円に対し5.5%(66万円)を損金算入。
結果、法人税約20万円の節税を実現。
さらに、貸倒発生時にも再計上不要で、会計がスムーズになりました。
🔹「引当金=節税」ではなく「経営の安定装置」
引当金の本来の目的は、将来の支出を予測し、利益を平準化すること。
たとえば、
- 今年多く儲かった分を、将来の不確実な支出に充てる
- その分、今年の法人税を軽減してキャッシュを温存する
というキャッシュフロー戦略としての意味が大きいのです。
税制上の損金算入が制限されても、「退職金積立」「共済制度」「貸倒見積」など、引当金的な考え方を持つこと自体がリスク管理になります。
🔹関連制度との併用も有効
経営セーフティ共済(中小機構):
掛金月20万円まで、最大800万円を損金算入可能
中小企業退職金共済(中退共):
掛金全額損金算入
倒産防止共済+貸倒引当金の組合せ:
資金繰り対策とリスク管理を同時に実現
これらを上手く組み合わせることで、“税制上認められる範囲での引当効果を維持できます。
🔹まとめ:
「利益はコントロールできる」
税務の本質は、「利益の出し方を設計すること」にあります。
引当金の活用は、単なる節税ではなく、“利益を自由にデザインする経営者のツールです。
黒字の年に余裕を持ち、赤字の年を乗り切る。
税金を払うタイミングを自分で決める──。
それが、引当金を使った“経営の知恵です。

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