親のお金があるのに使えない?
認知症で起こる「資産凍結」と家族の負担
親が高齢になると、心配になるのは介護だけではありません。
実は、見落とされがちなのが預金や不動産などの財産管理です。
「親に預金があるから、介護費用はそこから払えるだろう」
そう考えていたご家族が、いざという時に困ってしまうことがあります。
今回は、認知症とお金の管理に関する、実際によくある問題について、わかりやすくご紹介します。
少しずつ見えてきた親の変化
神奈川県内に住む会社員の佐藤健一さん(仮名・55歳)は、埼玉県で一人暮らしをしている89歳の父・正夫さん(仮名)の様子に違和感を覚えていました。
週末に実家を訪ねるたびに、家の中の様子が以前と少しずつ変わっていたのです。
たとえば、
- ゴミ出しがうまくできていない
- 同じ食品を何度も買ってしまう
- 郵便物を放置している
- 支払いの書類がたまっている
- 会話が少しかみ合わないことがある
最初は「年のせいかな」と思っていても、こうした小さな変化が重なると、家族としても不安になります。
健一さんが父を病院へ連れて行ったところ、診断は中等度の認知症でした。
医師からは、一人暮らしを続けることの危険性も説明され、介護施設への入所を考えることになりました。
預金があるのに、施設費が払えない
父には老後資金としての預金があり、年金収入もありました。
そのため、施設の入居費用や毎月の利用料は、父自身の財産でまかなえるはずでした。
ところが、銀行で思わぬ問題が起こります。
- 父を連れて窓口に行ったものの、暗証番号がわからない。
- 来店の理由もうまく説明できない。
- 本人確認の受け答えもあいまいになってしまう。
その結果、銀行は本人の判断能力が十分でない可能性があると判断し、口座の取引を慎重に扱うことになります。
ここで起きるのが、いわゆる資産凍結のような状態です。
つまり、
預金はあるのに、必要な時にすぐ使えない
という事態です。
なぜ家族でも自由にお金を引き出せないのか
「息子や娘なら、代わりに手続きできるのでは?」
と思う方も少なくありません。
しかし、法律上、預金は口座名義人本人の財産です。
親のお金であっても、子どもが当然に自由に引き出せるわけではありません。
金融機関は、本人の財産を守る立場にあります。
もし判断能力が低下している状態で安易に出金を認めれば、使い込みや詐欺被害につながるおそれがあります。
そのため、本人の受け答えに不安がある場合には、たとえ家族が付き添っていても、簡単には手続きが進まないことがあるのです。
本当に困るのは、その後の「空白期間」
この問題のつらいところは、
お金がないわけではないのに、使えない期間が生まれることです。
介護施設の利用料、医療費、生活費、日用品代。
こうした支払いは待ってくれません。
そのため、親の財産があるにもかかわらず、当面は子ども側が立て替えざるを得ないケースもあります。
- 自分の住宅ローンがある
- 子どもの教育費がかかる
- 仕事を休んで親の対応をしている
- きょうだい間で負担の差が出る
こうしたことが重なると、家族の負担は想像以上に大きくなります。
成年後見制度という方法もあるが、注意点もある
認知症などで判断能力が低下した後の制度として、よく知られているのが成年後見制度です。
これは、家庭裁判所が選んだ後見人が、本人に代わって財産管理や契約手続きなどを行う仕組みです。
ご本人を守るための大切な制度ですが、実際には注意しておきたい点もあります。
たとえば、
- 家族が必ず後見人になれるとは限らない
- 専門職が選ばれる場合もある
- 継続的な報酬負担が生じることがある
- 財産の使い方に一定の制約がある
そのため、成年後見制度は必要な場面では非常に有効ですが、
「もっと柔軟に家族で管理したかった」
と感じるご家庭もあります。
元気なうちに考えたい「家族信託」という方法
こうした問題に備える方法の一つとして、近年注目されているのが家族信託です。
家族信託とは、親が元気なうちに、信頼できる家族へ財産管理を託す仕組みです。
たとえば、将来認知症になった場合に備えて、子どもが預金や不動産の管理・運用・処分をしやすくするための契約を、あらかじめ整えておく方法です。
家族信託には、次のようなメリットが考えられます。
- 認知症による資産凍結の対策になりやすい
- 介護費や生活費の支払いを進めやすい
- 不動産の管理や売却の判断がしやすい
- 家族の事情に応じた柔軟な設計ができる
特に、不動産を持っている方や、今後の介護費用を親の財産から出す予定があるご家庭では、早めに検討しておく価値があります。
ただし、家族信託は「元気なうち」でないと難しい
大事なのはここです。
家族信託は、本人が契約内容を理解し、判断できるうちでなければ進めにくいという特徴があります。
つまり、
- 物忘れが増えてきた
- お金の管理に不安が出てきた
- 通帳や印鑑の場所があいまいになってきた
- きょうだいの間で今後の不安が出てきた
こうした段階こそ、実は相談のタイミングです。
「まだ大丈夫」と思っているうちに準備しておくことで、いざという時の家族の負担は大きく変わります。
こんなご家庭は、一度整理してみることをおすすめします
次のようなご家庭は、家族信託を含めた財産管理の準備を一度考えてみると安心です。
- 親が高齢で、一人暮らしをしている
- 親名義の預金や不動産がある
- 今後の介護費を親の財産から支払う予定がある
- 相続だけでなく、親の生活費管理も気になっている
- 成年後見以外の方法も知っておきたい
- きょうだい間で後々もめないようにしたい
まとめ
認知症の問題は、介護だけではありません。
親のお金があるのに使えないという事態が、家族の生活に大きく影響することがあります。
そして、この問題は、認知症になってから慌てて考えても、できる対策が限られてしまいます。
だからこそ、
親が元気なうちに
- 財産の内容を整理し
- 管理方法を決めておくこと
がとても大切です。
家族信託は、すべてのご家庭に必要というわけではありません。
ですが、将来の介護や財産管理に不安がある方にとっては、有力な選択肢の一つです。
「うちの場合はどう考えればよいのか」
「成年後見との違いは何か」
「不動産がある場合はどう設計するのか」
こうした点は、ご家庭の状況によって答えが変わります。
早めに整理しておくことで、将来の安心につながります。

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