見落としがちな経費の貯金箱
― 各種引当金制度の正しい活用と注意点
「今年は黒字になりそうだ。税金が高くなるな……」
そんなときに思い出してほしいのが、引当金制度です。
引当金とは、将来の支出に備えてあらかじめ経費を計上できる制度のこと。
うまく使えば、税負担を平準化し、資金繰りの安定に役立ちます。
ただし、安易に積み立てると否認リスクもあるため、ルールを理解しておくことが大切です。
☆引当金の基本
引当金とは、将来の特定の費用や損失を見込んで、当期の損金として計上できる仕組みです。
まだ発生していないけれど、将来ほぼ確実に支払うことが見込まれる支出が対象になります。
税務上認められている主な引当金は次の3つです。
l 退職給与引当金
l 賞与引当金
l 貸倒引当金
いずれも「将来の支出を今の費用にできる」ため、節税効果が大きい制度です。
☆①退職給与引当金 ― 将来の退職金に備える
社員や役員に将来支払う退職金の一部を、毎期ごとに損金算入できます。
かつては全額損金算入も可能でしたが、現在は中小企業退職金共済(中退共)など外部積立型のみが原則。
社内引当(内部留保方式)は、法人税法改正により損金不算入となりました。
したがって、実務上は
l 中退共に加入して掛金を支払う
l その掛金を損金算入するという形で節税します。
毎月の掛金を積み立てながら、退職時に非課税で給付できるため、最も安全で確実な引当制度です。
☆②賞与引当金 ― 支給予定のボーナスを事前計上
次に、社員への賞与。
支給が確定していなくても、「支給額・対象者・支給時期」が決まっていれば、その期に損金計上可能です。
たとえば、 「6月に社員10名へ各30万円を支給予定」という社内決定を12月末までに書面で残していれば、翌年支給でも当期の経費に計上できます。
ただし、
l 支給額・支給時期・対象者を明確に決定していること
l 翌期中(1年以内)に実際に支給していることが条件です。
文書決定(取締役会議事録など)を残すことで、税務署の否認を防げます。
☆③貸倒引当金 ― 売掛金の保険として
取引先が倒産したときに備えるのが貸倒引当金。
未回収の売掛金や貸付金の一定割合を、将来の損失に備えて損金算入できます。
「中小企業では、売掛債権 × 5.5%」
を上限として引当金を計上可能(法人税法施行令第96条)。
たとえば、年間売掛金が1,000万円なら、55万円を経費にできます。
実際に貸倒れが起きた際には、その分をこの引当金から充当できるため、会計と税務の両面で安定した損益管理が可能です。
☆山形市の事例:卸売業V社のケース
山形市の食品卸V社は、取引先の多くが小規模飲食店で、回収リスクが高め。
売掛金残高2,000万円に対し、貸倒引当金として110万円を計上しました。
翌年、取引先1社が倒産し、回収不能額が80万円発生。
このとき、引当金から対応できたため、追加の税負担ゼロで損失処理が可能に。 まさに「備えが節税を生む」実例です。
☆注意点:引当金は使わなければ戻る引当金の計上は一時的な損金化です。
将来支出が発生しなかった場合は、その分を戻入(益金)処理しなければなりません。
つまり、先送り節税にすぎないことを理解しておく必要があります。
また、税務署は「根拠のない引当」「過大な計上」を特にチェックします。
金額根拠を説明できるよう、過去実績や支出見込みを文書化しておくことが大切です。
☆専門家の視点
行政書士・税理士の立場から言えば、「引当金は節税ではなく、時間調整の知恵」です。
課税のタイミングをコントロールし、将来に備える。 これが本来の目的であり、過度な操作は逆効果になります。
とくに賞与引当金や貸倒引当金は、決算前の最終調整ツールとして非常に有効。
「黒字を出しすぎた年度のブレーキ役」として使うのが賢明です。
☆まとめ
引当金制度は、未来の支出を今に分散させる経費の貯金箱。
「節税=支出を増やすこと」ではなく、「支出のタイミングをずらすこと」
この発想を持てば、資金繰りも経営判断もぐっと安定します。
中小企業にとって、引当金は知っている人だけが得をする節税術なのです。

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