※令和8年度税制改正大綱・関連解説では、貸付用不動産や不動産小口化商品の評価見直しが示されていますが、実務では今後の法令・通達・個別事情の確認が必要です。
「不動産を買えば相続税対策になる」は終わるのか
令和8年度税制改正で変わる不動産相続対策
相続税対策の世界では、長い間「現金で持つより不動産に替えた方が有利」と言われてきました。
理由は単純です。
現金1億円は、相続税の計算でも原則として1億円と評価されます。
一方、不動産は、土地であれば路線価、建物であれば固定資産税評価額をもとに評価されるため、実際の売買価格より低く評価されることが多いからです。
さらに、その不動産を賃貸していれば、貸家建付地や貸家評価により、評価額がさらに下がる場合があります。
小規模宅地等の特例が使えるケースでは、評価額が大きく圧縮されることもあります。
そのため、富裕層や経営者の間では、「相続税を下げたいなら不動産を活用する」という考え方が広く使われてきました。
しかし、この常識が大きく変わろうとしています。
なぜ不動産は節税に使われてきたのか
相続税対策として不動産が使われてきた最大の理由は、時価と相続税評価額の差です。
たとえば、1億円の現金をそのまま持っていれば、相続税評価額も基本的に1億円です。
ところが、1億円で賃貸不動産を購入すると、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されます。
さらに賃貸中であれば、借家人がいることによる制約も考慮されます。
その結果、実際には1億円で買った不動産でも、相続税上の評価額は6,000万円、4,000万円、場合によってはそれ以下になることもありました。
特に都市部の不動産や不動産小口化商品では、実勢価格と相続税評価額の差が大きくなることがあり、その差を利用した相続税対策が行われてきました。
国税が問題視してきた「行き過ぎた節税」
ただし、すべての不動産対策が安全というわけではありません。
近年、国税当局は、相続直前に多額の借入れをして不動産を購入し、相続税評価額を大きく圧縮するような手法に厳しい目を向けています。
有名なのが、いわゆる「総則6項」の問題です。
これは、財産評価基本通達による評価が著しく不適当と認められる場合に、国税側が別の合理的な評価方法を使うことができるという考え方です。
令和4年の最高裁判決でも、相続直前に多額の借入れをして不動産を取得し、相続税評価額を大きく下げた事案について、国税側の評価が認められました。
この判決以降、「通達どおりに計算していれば必ず安全」とは言い切れない時代になっています。
令和8年度税制改正の大きなポイント
令和8年度税制改正では、貸付用不動産や不動産小口化商品を使った相続税・贈与税対策について、評価方法の見直しが示されています。
大きなポイントは2つです。
1つ目は、相続開始前または贈与前5年以内に取得・新築した貸付用不動産について、従来の路線価や固定資産税評価額による評価ではなく、より時価に近い評価方法が使われる方向であることです。
これにより、「高齢になってから急いで賃貸アパートを買う」「相続直前に借入れをして不動産を取得する」といった駆け込み型の節税は、かなり難しくなると考えられます。
2つ目は、不動産小口化商品です。
不動産小口化商品は、都心のビルや賃貸物件などを小口で所有できる商品で、これまでは実物不動産と似た評価方法により、相続税評価額を下げられる商品として利用されてきました。
しかし、改正後は、取得時期にかかわらず、通常の取引価額に近い金額で評価される方向が示されています。
適用時期は、令和9年1月1日以後の相続・贈与による取得財産からとされています。
「昔買ったから大丈夫」とは言えない
特に注意したいのは、不動産小口化商品です。
通常の貸付用不動産については、「5年以内取得」が大きな判断基準になります。
しかし、不動産小口化商品については、取得時期にかかわらず新しい評価方法の対象になる方向とされています。
つまり、過去に相続税対策として購入した不動産小口化商品であっても、令和9年1月1日以後に相続が発生すれば、当初期待していたほど評価額が下がらない可能性があります。
これは、すでに不動産小口化商品を持っている方にとっても大きな問題です。
- 「数年前に買ったから安心」
- 「税理士に勧められて買ったから大丈夫」
- 「相続税対策として設計済みだから問題ない」
このように考えている場合でも、改正後の評価額をもう一度確認する必要があります。
これからの不動産相続対策はどう考えるべきか
今回の改正で大切なのは、「不動産による相続対策がすべてダメになる」ということではありません。
問題になるのは、節税だけを目的に、短期間で不動産を取得するような対策です。
これからは、不動産を単なる節税商品として見るのではなく、収益性・管理性・換金性・承継性を含めて判断する必要があります。
たとえば、次のような視点が重要です。
- 本当に収益を生む不動産か
- 空室リスクや修繕リスクはないか
- 相続人が管理できる物件か
- 売却しやすい立地か
- 借入金の返済に無理はないか
- 相続人同士で分けにくい財産にならないか
- 将来、空き家や負動産にならないか
特に地方都市では、都市部とは違い、賃貸需要や売却需要が限られる地域もあります。
相続税評価額が下がるからといって、管理しにくい不動産を持つと、次世代に負担を残すことにもなりかねません。
早めにやるべきこと
すでに不動産や不動産小口化商品を持っている方は、まず資産の棚卸しをすることが大切です。
取得時期、購入価格、現在の時価、相続税評価額、借入金残高、収益状況、売却可能性を整理します。
そのうえで、改正後に評価額がどの程度変わるのかを税理士等に確認する必要があります。
場合によっては、生前贈与、売却、資産の組み換え、遺言書の見直し、家族信託の活用なども検討対象になります。
ただし、「令和8年中に贈与すれば必ず得」という単純な話ではありません。
贈与税、相続時精算課税、将来の相続税、譲渡所得税、不動産取得税、登録免許税、家族関係まで含めて総合判断する必要があります。
まとめ
これまで不動産は、相続税対策の有力な手段でした。
しかし、令和8年度税制改正により、相続直前の不動産購入や不動産小口化商品を使った過度な評価圧縮は、今後かなり難しくなると考えられます。
これからの相続対策で大切なのは、単に「税金が下がるか」だけではありません。
その不動産を
- 次世代が持ち続けられるのか。
- 売れるのか。
- 貸せるのか。
- 分けられるのか。
- 家族の争いの原因にならないか。
ここまで考えて初めて、本当の相続対策といえます。
不動産は、うまく使えば資産を守る力があります。
しかし、節税だけを目的に持つと、将来の家族に重い負担を残すこともあります。
相続税対策として不動産を持っている方、これから購入を考えている方は、令和9年以降の評価見直しを前提に、早めに資産全体を点検しておくことが重要です。

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