負債の金額が分からない相続では、まず何をすべきか
相続というと、預貯金や不動産などの「プラスの財産」を思い浮かべる方が多いと思います。
ところが実際の相続では、借金、ローン、未払金、税金の滞納、保証債務などの「マイナスの財産」も一緒に問題になります。
特に怖いのは、亡くなった方にどれくらい負債があるのか分からないケースです。
「借金はなかったはず」
「通帳には少しお金が残っている」
「不動産もあるから大丈夫だろう」
このように思っていても、後からカードローン、事業上の借入、税金の滞納、保証人としての債務などが見つかることがあります。
相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぐ可能性があるため、早い段階で確認することが大切です。
- まずは通帳・郵便物・書類を確認する
負債の有無を調べるとき、最初に確認したいのは、亡くなった方の通帳や郵便物です。
通帳を見ると、毎月の引き落としや返済の履歴が分かります。
たとえば、銀行、カード会社、消費者金融、ローン会社、保険会社などへの定期的な支払いがあれば、何らかの契約が残っている可能性があります。
また、郵便物も重要です。請求書、督促状、ローンの明細、クレジットカードの利用明細、税金や保険料の納付書などが届いていないかを確認します。
さらに、机の引き出し、金庫、ファイル、仏壇まわり、車の中などから、借用書や契約書が出てくることもあります。
確認すべきものを整理すると、次のようになります。
- 通帳の入出金履歴
- 郵便物
- 請求書
- 督促状
- 借用書
- ローン契約書
- クレジットカード明細
- 税金・保険料の納付書
- 公共料金の未払通知
- 事業関係の契約書
- 保証人になっている書類
特に自営業をしていた方、不動産を持っていた方、過去に事業資金を借りていた方は、個人の生活費以外の負債が残っていることもあるため注意が必要です。
- 信用情報機関への開示請求も検討する
通帳や郵便物を見てもはっきりしない場合は、信用情報機関への情報開示請求を検討します。
主な信用情報機関には、全国銀行個人信用情報センター、CIC、日本信用情報機構、いわゆるJICCがあります。
これらの機関では、銀行ローン、クレジットカード、消費者金融、カードローンなどの契約や返済状況を確認できる可能性があります。
ただし、誰でも請求できるわけではありません。基本的には法定相続人が請求することになります。
たとえば父親が亡くなった場合、その子どもは法定相続人になるため、開示請求ができる可能性があります。
一方で、祖父母が亡くなった場合、孫が必ず請求できるとは限りません。
孫が法定相続人でない場合は、請求できないこともあります。
この点は、相続関係によって変わりますので、戸籍を確認しながら進める必要があります。
- 信用情報機関で分からない負債もある
ここで注意したいのは、信用情報機関に照会すれば、すべての負債が分かるわけではないという点です。
信用情報機関で分かるのは、主に金融機関、カード会社、消費者金融、信販会社などに関する情報です。
しかし、次のようなものは分からないことがあります。
- 固定資産税の滞納
- 住民税の滞納
- 国民健康保険料の滞納
- 介護保険料の滞納
- 水道光熱費の未払い
- 家賃の滞納
- 個人間の借金
- 事業上の未払金
- 保証人としての債務
特に税金や公共料金の滞納は、役所からの通知や督促状を確認しなければ分からないことがあります。
また、個人間の借金は信用情報機関には登録されないことが多いため、借用書、メモ、通帳の振込履歴、相手方からの連絡などを確認する必要があります。
- 負債が多そうなら相続放棄を検討する
調べた結果、明らかに負債が多い場合は、相続放棄を検討します。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
そのため、借金や未払金などの負債を引き継がずに済みます。
ただし、相続放棄をすると、預貯金や不動産などのプラスの財産も原則として相続できません。
「借金だけ放棄して、不動産だけもらう」という都合のよい選択はできないということです。
また、相続放棄には期限があります。
原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。
この3か月は思っている以上に短いです。
葬儀、役所の手続き、金融機関への連絡、親族との話し合いをしているうちに、すぐに時間が過ぎてしまいます。
- 負債額が分からない場合は限定承認も選択肢
負債があるかもしれないが、プラスの財産もある。
不動産や預貯金をすぐに手放す判断はできない。
しかし、後から大きな借金が出てくるのも怖い。
このような場合に検討されるのが、限定承認です。
限定承認とは、簡単にいうと、相続によって得た財産の範囲内でだけ、亡くなった方の債務を引き継ぐ方法です。
たとえば、プラスの財産が1,000万円、負債が1,500万円だった場合、相続人が自分の財産から不足分の500万円を支払う必要はありません。
相続した財産の範囲内で清算するという考え方です。
このため、負債の全体像がはっきりしない相続では、限定承認が有効な場合があります。
- 限定承認のメリットと注意点
限定承認のメリットは、相続人自身の財産を守りながら、プラスの財産を残せる可能性があることです。
相続放棄をすると、すべての財産を相続できなくなります。
しかし、限定承認であれば、清算した結果としてプラスが残れば、それを相続できる可能性があります。
一方で、限定承認は簡単な手続きではありません。
大きな注意点は、相続人全員で行う必要があることです。
相続人のうち1人だけが「限定承認したい」と思っても、他の相続人が反対すれば進めにくくなります。
また、家庭裁判所への申述、財産目録の作成、債権者への公告、弁済手続きなど、通常の相続より手続きが複雑です。
さらに、不動産がある場合には税務上の問題が生じることがあります。
限定承認をすると、税務上、亡くなった方が相続人へ不動産を時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得税の問題が出ることがあります。
その場合、相続人が亡くなった方の代わりに準確定申告を行う必要が生じることもあります。
つまり、限定承認は便利な制度ではありますが、専門家の確認なしに安易に選ぶべき制度ではありません。
- 限定承認でも相続税がかかることがある
限定承認をした場合でも、プラスの財産が多く残れば、相続税がかかることがあります。
相続税は、基本的にプラスの財産から負債を差し引き、さらに基礎控除を差し引いて計算します。
基礎控除は、
3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
たとえば、プラスの財産が7,000万円、負債が2,000万円、法定相続人が子ども1人の場合、
7,000万円-2,000万円-3,600万円=1,400万円
となり、1,400万円が課税対象になります。
このように、限定承認をしたからといって、相続税の問題が消えるわけではありません。
- まとめ
負債の金額が分からない相続では、まず通帳、郵便物、請求書、督促状、契約書などを確認します。
それでも分からない場合は、信用情報機関への開示請求を検討します。
ただし、信用情報機関で分かるのは主に金融関係の負債です。
税金、公共料金、個人間の借金、保証債務などは別に確認する必要があります。
負債が多い場合は相続放棄、負債額が分からずプラスの財産もある場合は限定承認が選択肢になります。
大切なのは、相続放棄も限定承認も、原則として3か月以内という期限があることです。
「もう少し調べてから考えよう」と思っているうちに、期限が過ぎてしまうことがあります。
負債があるかもしれない相続では、早めに資料を集め、相続人で情報を共有し、必要に応じて専門家へ相談することが重要です。
負債の確認は、相続トラブルを防ぐための最初の防波堤といえるでしょう。

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