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保管証書遺言とは何か2026年改正で新設される「デジタル時代の遺言」

 保管証書遺言とは何か2026年改正で新設される「デジタル時代の遺言」

 

 2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」では、新しい普通方式の遺言として、保管証書遺言が創設されました。

 これまで普通方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類でしたが、改正後は保管証書遺言が加わります。

 最大の特徴は、パソコン等で作成した書面だけでなく、一定の電磁的記録による遺言も法務局に保管できることです。

 ただし、2026年6月29日現在、保管証書遺言はまだ利用できません。

 関連規定は2026年6月24日の公布日から3年以内の政令で定める日に施行されます。

 具体的な施行日、利用できる電子データの形式、署名に代わる本人確認方法、手数料などは、今後の政令・法務省令で定められます。

 

1.保管証書遺言の基本的な仕組み

 保管証書遺言には、紙で作成する「書面保管証書遺言」と、電子データで作成する「電子保管証書遺言」があります。

 現行の自筆証書遺言では、財産目録を除き、原則として本文を本人が自書しなければなりません。

 これに対し、保管証書遺言では、パソコン等を使って本文を作成することが可能になります。

 高齢や病気で長文を手書きすることが難しい人にとって、利用しやすい方式になることが期待されます。

 ただし、「パソコンで作って保存すれば遺言になる」というものではありません。

 次の手続が必要です。

  • 遺言の全文を紙または電磁的記録で作成する
  • 遺言者が署名するか、法務省令で定める署名に代わる措置をとる
  • 法務局の遺言書保管官に保管を申請する
  • 遺言書保管官の前で遺言の全文を口述する
  • 法務局がその紙または電子データを保管する

 これらの手続を経て法務局に保管されなければ、保管証書遺言としての効力は生じません。

 

2.なぜ全文を口述するのか

 遺言者には、遺言書保管官の前で、作成した遺言の全文を口頭で述べることが求められます。

 これは、提出された文書や電子データが、遺言者本人の認識している内容と一致していることを確認し、第三者によるなりすまし、書換え、本人の知らない内容の持込みなどを防ぐためです。

 口がきけない人については、通訳人による申述または自書によって口述に代えることができます。

 また、不動産や預貯金を記載した財産目録については、遺言者に画面や書面を見せて確認させるなど、法務省令で定める措置をとれば、全文の読み上げを省略できる場合があります。

 一定の場合には、遺言書保管官が相当と認めれば、映像と音声を送受信できる方法を利用して口述することも予定されています。

 ただし、法律上オンライン利用が認められたからといって、すべての申請を自宅から完結できると決まったわけではありません。

 具体的な対象者、本人確認、使用機器等は今後定められます。

 

3.現行の自筆証書遺言書保管制度との違い

項目

現行の自筆証書遺言書保管制度

保管証書遺言

本文の作成

原則として本人が全文を自書

パソコン等での作成が可能

電子データ

原則として対象外

電磁的記録による作成・保管が可能

本人の口述

不要

原則として全文の口述が必要

法務局の位置付け

作成済みの自筆証書遺言を保管

法務局での確認と保管が方式の一部

効力

遺言書完成時に成立し、保管は任意

法務局に保管されなければ効力が生じない

証人

不要

条文上、証人立会いは要件とされていない

 

 保管証書遺言は、現在の保管制度を単に電子化するだけではありません。

 法務局での口述確認と保管自体を、遺言の成立要件とする新しい遺言方式です。

 

4.公正証書遺言との違い

 公正証書遺言は、公証人が遺言者から内容を聞き取り、公正証書として作成する制度です。

 通常は証人2人の立会いが必要であり、公証人による法的確認が入るため、複雑な相続や遺言能力をめぐる争いが予想される場合に適しています。

 一方、保管証書遺言では、遺言者があらかじめ文章や電子データを準備します。

 遺言書保管官は本人確認や口述確認、保管事務を行いますが、公証人のように、相続内容を一から設計したり、遺留分、税金、登記手続まで助言したりする制度ではありません。

 

したがって、法務局に保管されたからといって、

  • 財産の記載に誤りがない
  • 遺留分侵害がない
  • 相続税対策として適切である
  • 不動産登記が確実にできる
  • 遺言者の判断能力が将来争われない

ことまで保証されるわけではありません。

 

5.死亡後の取扱い

 遺言者が死亡した後は、相続人、受遺者、遺言執行者などが、法務局に対して遺言書情報の証明や閲覧を請求できる仕組みが設けられます。

 また、法務局が遺言書を保管していることを関係者に通知する制度も整備されます。

 これにより、遺言書が発見されない、相続人の一人が隠す、電子データが削除されるといった危険を抑えられます。

 遺言者が生前に保管申請を撤回した場合には、その保管証書遺言を撤回したものと扱われます。

 内容を変更したい場合は、古い遺言と新しい遺言が混在しないよう、撤回と新規作成の手順を明確にすることが重要です。

 

6.実務への影響

 保管証書遺言が始まると、行政書士には、パソコンによる遺言原案の作成だけでなく、相続人調査、財産目録作成、遺留分確認、遺言執行者の指定、付言事項、相続登記につながる不動産表示の確認などが求められます。

 特に高齢者に対しては、作成時の判断能力、本人の発言内容、家族からの不当な影響がないことを面談記録として残すべきです。

 保管証書遺言は便利な制度ですが、単純な財産関係は保管証書遺言、複雑な相続・事業承継・紛争のおそれがある場合は公正証書遺言というように、案件ごとの使い分けが必要です。

 保管証書遺言は、「手書きが難しい」「公正証書遺言ほど費用をかけたくない」「電子的に作成したい」「法務局に安全に保管してほしい」という需要に対応する制度です。

 今後、遺言を身近にする有力な選択肢となりますが、内容面の法的安全性を確保するためには、専門家による事前設計が重要になります。