2026年6月17日成立・成年後見制度改正法の要約
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に令和8年法律第45号として公布されました。
併せて、約60の関係法律を整理する令和8年法律第46号も公布されています。
成年後見制度に関する改正は、2026年6月24日から2年6か月以内の政令で定める日に施行されます。
したがって、現時点ではまだ従来の制度が適用され、具体的な施行日は決まっていません。
1.改正の中心は「後見・保佐・補助」の一本化
現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、成年後見・保佐・補助の3類型に分かれています。
しかし、成年後見が開始されると、本人の行為能力が広く制限され、必要な用事が終わっても制度が原則として続くことなどが問題とされてきました。
改正法では、成年の「後見」と「保佐」を廃止し、法定後見制度を補助制度に一本化します。
単に認知症や障害があるから一律に広い権限を補助人に与えるのではなく、本人が実際に必要としている行為について、必要な範囲だけ権限を設定する仕組みに変わります。
2.必要な権限だけを個別に設定する
新制度では、家庭裁判所が、本人の状態と必要性に応じて、主に次の権限を補助人に与えます。
- 特定の行為について補助人の同意を必要とする権限
- 同意を得ないで行った行為を取り消す権限
- 不動産売却、預金管理、施設契約など特定の法律行為を代理する権限
対象となる重要な行為には、預貯金の払戻し、借入れ、保証、不動産の処分、贈与、相続の承認・放棄、遺産分割、長期賃貸借などがあります。
日用品の購入など、日常生活に関する行為は取消しの対象外です。
判断能力を欠くことが通常の状態にある人については、家庭裁判所が「特定補助人」を付けることができます。
特定補助人には、法律で定められた重要な財産行為の取消権、意思表示を受ける権限、財産の保存行為をする権限が与えられます。
ただし、代理権は別途、必要な行為ごとに付与されます。
3.必要がなくなれば終了・縮小できる
現行制度では、「不動産を売却するために後見人を付けたが、売却後も後見が続く」といった問題があります。
改正後は、同意権、取消権、代理権などについて、必要がなくなれば家庭裁判所が全部または一部を取り消すことができます。
すべての権限が不要になった場合には、補助開始の審判自体を取り消します。
補助人には年1回、本人の状況等を家庭裁判所へ報告する義務があり、その報告を基に裁判所が職権で権限を見直すこともできます。
つまり、新制度は、従来のように「一度始まれば長期間続く制度」から、必要な目的・期間・権限に限定して利用する制度へ転換します。
4.補助人を交代させやすくする
現行制度では、後見人に不正がなくても、本人との相性や専門性の問題だけでは交代が難しい場合があります。
改正後は、不正行為や重大な任務違反に加え、本人の利益のため特に必要がある場合にも、家庭裁判所が補助人を解任できます。
例えば、不動産売却が終了した後に専門職から親族へ交代する、本人との関係が悪化した補助人を変更する、といった柔軟な運用が想定されます。
5.本人の意思を確認する義務を強化
補助人は、本人に情報を提供し、本人の話を聴くなど、その人の状態に応じた適切な方法で意向を把握しなければなりません。
そのうえで、把握した本人の意向を尊重し、心身や生活の状況に配慮して事務を行うことが明文化されました。
これは「専門家が本人のためになると思うことを決める」のではなく、できる限り本人自身の意思決定を支えるという考え方を明確にしたものです。
6.任意後見制度も見直される
任意後見については、現在の「任意後見監督人の選任によって契約が発効する」という仕組みを、「任意後見開始の審判」に改めます。
原則として監督人を選任しますが、監督の必要が明らかにない場合には、監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することも可能になります。
本人が契約時に監督人候補について希望を述べる仕組みも設けられます。
また、任意後見人についても、本人への情報提供、意向の聴取、意思の尊重が明確に義務付けられます。
複数の任意後見契約を予備的に準備し、第一の受任者が欠けるまで第二の契約を開始させない合意も可能になります。
7.現在利用中の後見は自動的には変わらない
施行前に開始している成年後見や保佐は、施行後も原則として旧制度のまま継続します。
自動的に新しい補助制度へ移行するわけではありません。
ただし、新制度による補助開始を申し立て、新しい補助制度へ移行したうえで、従来の後見・保佐を取り消してもらうことは可能です。
8.遺言制度も同時に改正
今回の法律には遺言制度の改正も含まれます。
自筆証書遺言などの押印が原則不要となり、法務局で内容を口述確認して保管する「保管証書遺言」が新設されます。
保管証書遺言は、紙だけでなく電磁的記録による作成も予定されています。
死亡の危急が迫った場合の遺言についても、録音・録画やオンラインでの証人立会いを利用できる仕組みが設けられます。
遺言関係は内容により施行時期が異なり、押印の任意化等は公布から1年以内、電子的な保管証書遺言等は公布から3年以内に施行される予定です。
実務への影響
改正後は、「判断能力の程度だけで類型を選ぶ」という相談から、本人が、
- どの行為について、
- どの程度の支援を、
- いつまで必要としているか
を具体的に設計する相談へ変わります。
補助人の権限を広く設定しすぎず、定期的に「現在も必要か」を確認する継続的な支援が重要になります。
今回の改正は、成年後見制度を単なる財産管理制度から、本人の意思を尊重しながら、必要最小限の支援を提供する制度へ転換する大改正と評価できます。

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